自動車販売店だけではない。スーパー、学習塾、コミュニティーカフェ、卸売市場、老人ホーム、教会・寺院、さらには結婚式場やセレモニーホールまで、開催場所は多岐にわたる。参加するのは市民ボランティアだけではない。企業の協賛も、食品製造やスーパーだけでなく、金融や物流まで、業種・業態の広がりには目を見張るものがある。
主に対象となるのは、児童扶養手当やひとり親医療などを利用するひとり親家庭である。地域によっては、両親がいる家庭や外国人も対象としている場合もある。
埼玉県のフードパントリーを束ねる「埼玉フードパントリーネットワーク」(埼玉県越谷市)では、約4000世帯のひとり親家庭に定期的な食料支援をしている。埼玉県内の児童扶養手当受給者が約4万世帯だから、その1割をカバーしている計算となる。これだけの規模で、定期的に支援を続けるケースは、長い社会福祉の歴史の中でもほとんど例がない。
19年2月に4団体から発足した取り組みは、4年間で75団体にまで広がった。22年度の食品提供は145トンを超える。そのうち、約85トンは企業や団体からの定期的な寄贈品となっている。
関東地方で食品スーパーをチェーン展開する「ヤオコーマーケットプレイス」(埼玉県川越市)は、フードパントリーや子ども食堂に、主食となる米を毎月100袋提供している。ヤオコーは、食を通じて地域の方々の生活が豊かになることを経営理念として掲げ日々活動している。コロナ禍で地域の子どもたちの窮状を知ったことが、今回の取り組みのきっかけだという。
配送は、「アサヒロジスティクス」(さいたま市)が協力している。他の企業からも、数千人分が一括して寄贈されるケースが少なくない。こうした大量の物品を受け入れ、個々のパントリーに必要数を届ける仕組みが不可欠である。
飛躍的にパントリーの活動が広がった秘密は、埼玉県全域をカバーする物流網にある。「関東食糧」(埼玉県樋川市)などが倉庫を無償提供して寄贈品を受け入れ、「首都圏物流グループ」(東京都板橋区)などの運送会社が分担して定期配送を担う。市民団体と企業による物流網の構築で、大量の寄贈品をいつでも受け入れることができ、個々のパントリーがきめ細かく対応することで、必要とする人に確実にリーチする。体制が整うことで、多くの企業が協力を申し出る好循環が生まれている。
埼玉フードパントリーネットワークの草場澄江理事長は語る。
「『いつも安い外国産のコメを買うが、ここで受け取る国産がおいしい』という声もあり、ニーズの高さを感じる。企業や個人などからの食料寄贈品を受け入れ、ひとり親家庭など子育て中で食料支援が必要な家庭にお渡しすることで、子どもの貧困や食品ロスの削減の解決につながる。埼玉だけでなく全国にその取り組みを広げていきたい」
1万8000世帯を支える
食支援プラットフォーム
全国的な支援体制の構築に向けた動きもある。