「オイシックス・ラ・大地」(東京都品川区)は、一般社団法人RCF(同・新宿区)、ココネット(同・中央区)と連携し、ひとり親家庭の食支援を行うプロジェクト「We Support Family(WSF)」を進めている。首都圏1都3県を中心に、食品提供の支援世帯は約1万8000世帯以上に及ぶ。サポート企業には、カルビー、ネスカフェ、ローソンなど日本を代表する企業55社が並ぶ。支援物資総額は、金銭換算で5億円を超えた。
WSFの役割は、企業からの寄贈品を受け取り、自社の倉庫で一時保管したうえで、各地域のパントリーへの配送業務を行うことにある。埼玉フードパントリーネットワークも協力団体の一つである。多くのパントリーは市民団体が運営する小規模なものであり、一度に大量の寄贈品はさばききれない。一企業が複数の市民団体と受け入れ調整をするのも手間がかかる。WSFがハブとして機能することで、これらの課題を解決している。
WSFを担当するコーポレートコミュニケーション部長の大熊拓夢氏は言う。
「運営母体となるオイシックスは、食品宅配を中核事業としている。単に食品を届けるだけでなく、食材をきっかけに家族の会話が生まれるような物語性を大切にしている。例えば、新鮮な小松菜は生でも食べることができる。生産者のメッセージとともに届けることで、食卓で新しい会話が生まれる」
大熊氏は、これらを「体験価値」と呼ぶ。WSFでも単に食材を届けるだけでなく、生産者と協力した農業体験の実施など、食を通じた喜びの体験価値をつくっていきたいと力をこめる。
必要なのは「相談」ではなく
直接的な「支援」
政府による調査では、ヤングケアラー本人や家族は支援を望まないケースが少なくない。それは、「支援を望まない」のではなく、「求める支援が提供されない」からではないだろうか。例えば、離婚の理由や経済状態など家族のことを根掘り葉掘り聞かれたり、安易な同情や簡単レシピや節約の工夫など〝上から目線〟のアドバイスをされたり、望んでもいない関係者に引き合わされたり……。
既存の福祉政策の枠組みの中での押しつけがましい「相談」は、現状の解決どころか、事態を悪化させることさえある。
この点で、「食」をキーワードにした支援はいくぶんかハードルが低い。普段の食事にちょっとした彩りが加わり、経済的不安も軽減できる。わずか数年で食支援の動きが急拡大しているのは、利用者のニーズに合致しているからでもある。
最後に、政府レベルの動きについても言及しておきたい。民間主導で取り組みが進む食支援活動の広がりに伴い食品ロス削減を所管する農林水産省、こどもの貧困問題を所管する子ども家庭庁、生活困窮者支援を所管する厚生労働省はもちろん、税制を所管する財務省、消費者保護を所管する消費者庁などもヒアリングに動き出している。
現在は、企業が生み出す大量の余剰食品の多くは産業廃棄物として処理されている。こうした地球資源の浪費に課税し、一方で寄贈品を提供した場合は簡単な手続きで損金として計上できるようにすれば取り組みは加速するだろう。また、寄贈品とはいえ、不適切な管理で食中毒が出たり、転売が横行したりすればブランドイメージが傷つきかねない。消費者までの流通経路を透明化するトレーサビリティーを整備することも不可欠だろう。
こうした取り組みは、既存の福祉政策の延長線上にはない。むしろ、企業活動を通じて蓄積したノウハウこそがヤングケアラーを救う鍵となりうる。今後の活動の転機をつくるのは、読者であるあなたなのかもしれない。