2024年7月16日(火)

Wedge REPORT

2023年10月30日

 「将来は社長になりたい」と話し、別の目標も出来た。大学の研究者になってプログラムを開発したいという目標も持ち始め、どのような方法があるかを調べて大学受験を考えているところだ。

 コツコツと真面目に勉強するタイプの娘は、「学校の先生に媚びて内申点をとらなければいけない公立を嫌だと思った」という理由も、私立中の受験を後押ししたと話す。娘の場合は「塾も受験も楽しかった」と言い、日々、塾の宿題を淡々とこなした。小学校の同級生の皆が受験するため、お互いをライバル視せず、足を引っ張り合うようなこともなかった。

 第一志望ではなかったものの、学校がしっかり生徒をサポートするタイプの中学に進んだ。好きなスポーツの部活に入り、中学生活を楽しんでいる。娘は「将来の夢は社長になって、えらくなりたい」と話す。子ども2人の中学受験を終えた杏子さんは、こう総括する。

 「たとえ入試に落ちても、自分は女優と言い聞かせて笑顔で子どもに接する。絶対にどこかに合格させて、楽しく通学してもらう。第一志望でない学校でも、幸せな結末を迎えることが大事です。中学受験させたのは親である私。だから、結末まで責任を持つと決めたのです」

「みんなはエリートになるんだから」

 このように理想通りに進めばいいが、一方では過熱する中学受験に参戦するかどうか、悩む親子は決して少なくない。

 増田亜紀さん(仮名、40代)は小6の娘がいるが、多額の塾代に疑問を抱いたこともあり、「もう受験はやめました」と割り切る。娘が通う学校では、半数近くが中学受験する。3年生の時に大手の塾を見学すると、講師が子どもたちに「みんなはエリートになるんだから」と言って注意をしていた。まず、その様子に違和感を抱いた。

 とはいえ、周囲は中学受験する子が多い。いくつか見学したなかでアットホームな雰囲気のある塾に入ったが、塾からは1日に2時間は家で勉強するようにと言われた。平日の週3日、16時半から19時まで塾に通って疲れて帰宅する娘は、ご飯を食べる気力も風呂に入る元気もなくした。塾からは小学5年生になると21時までの授業になるため、弁当を持参するように言われた。

 周囲のママ友は、6年生で塾にかけた費用が年間250万円だという。今後、塾の費用がかさんできた時に、娘にやる気があるのかどうか。「このまま中学受験のレールに乗っていいのか」と疑問を抱いたのだった。

 「理想通りにいかなければきっと、『お金と時間をかけたのに!』と言ってコスパで子どもを見てしまうようになると思うんです。そうなったら嫌だと思いました」

 新型コロナウイルスの感染拡大もあって、娘のモチベーションは下がっていた。亜紀さんも、「まだ10歳くらいで〝名門校〟というイメージだけで頑張るなんて苦しい。なにより金銭面で受験生活を支えられない」と感じていた。皆が受験するからという理由で〝課金ゲーム〟に参加することへの疑問もある。なにより、「いったい、皆は何をゴールに中学受験しているのだろう」という疑問が払しょくできず、娘が5年生の時に受験しないと方針を決めた。

 子どもたちの間では「受験する子」「〇〇塾に行っている子」という、すみ分けができている。出版社勤務の亜紀さんの同僚たちは、中学受験が当たり前。小学校受験する同僚も多い中で、中学受験しないことに「嘘でしょ!?信じられない!」という反応をされ、職場の空気が微妙な雰囲気になってしまうが、亜紀さんはこう思う。

 「私たち親の多くが就職氷河期世代です。皆、不安だから子どもにお金をかけるんだと思うのです。でも、塾詰めの生活で、その子はどんな大人になっていくのか」


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