2024年7月16日(火)

Wedge REPORT

2023年10月30日

早期教育の弊害

 私立の進学校の元高校教師で現在は保育園の経営者が、「勉強、勉強で『決められない子』が育ってしまうと実感しています。遊びに集中することも大切だと痛感しています」と話す。

 地方のある保育園では、0歳児の保育室に、ひらがなとアルファベット表を貼っている。1歳から机と椅子に座らせ、鉛筆を持たせている。年中からは楽器を使って合奏の訓練が始まる。皆についていけず楽器がうまく演奏できない園児に対して保育士は「下手な子は音を出さないで!」と指導しているが、親からは人気のある保育園だという。

 その保育園を卒園した子どもたちが入学する小学校では「あの園からくる子は荒れている」で有名。未就学児のうちに「諦めること」を覚えた新1年生のやる気を起こさせるのに、教員らが苦心しているという。

 「幼児期から早期教育の中にいると、大人の顔色をうかがうようになる傾向があります。『やりたくない』と思うより先に、大人の言う通りに出来てしまう子もいます。自我が芽生えるより先に他人からの評価を気にすると、結果、中高生になってから自分の意志で物事を決められなくなる子どもたちが多いと感じます。

 高校教師の時、文化祭で『好きなことをしていいよ』と言っても、生徒は何をしていいか分からないのです。指導しなければ動けない、進路も決められない高校生が多かった。従わせる保育や教育をすると、その子から考える・判断する力を奪っていくのです。大人がおぜん立てするのは子どものためでなく、大人にとってやりやすいからでしかない。管理された早期教育だと、結局、子どものためにならない」

 そして、こう続ける。

 「子どもが夢中になって遊んでいる時、集中力が養われているのです。その状況を見守ってあげるうち、子どもの知的好奇心が深まり、探求心につながっていきます。自分で調べる意欲が育ち、誰かに言われなくても自分で判断できるようになる。子どもが遊び込むことが将来、自分の力を発揮する基礎になることに、多くの親が気づいていないのです」

 格差社会が定着したことが、中学受験を過熱させる大きな要因の一つになっているのではないだろうか。不安が煽られれば、〝課金ゲーム〟に参加しても不思議ではない。親子の意思が固まらないまま「右へ倣へ」と中学受験の波に巻き込まれないよう、中学受験で本当にその子の力を育てているのか、いったん立ち止まって考えたほうがいいのかもしれない。

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