この関連会社は元富士通の中国人従業員が創業した会社で、中国でもシステム開発の法人を立ち上げており、社長は、中国人民政治協商会議(CPPCC: Chinese People’s Political Consultative Conference)の正式メンバーとして選出されている。CPPCCとは、中国の政治諮問機関であり、中国共産党の統一戦線システムの中核をなす機関である。中国統一戦線については「日本企業や大学、町中華にまで広がる中国の情報窃取」に詳述しているが、中国共産党員のなかでもエリート中のエリートに選ばれている人物だと言えるだろう。
関係者は、「富士通は受注した官公庁のシステム開発をこの関係会社に再委託して納品していた。富士通は、保守管理の名目で関係会社へアクセス権を与え続けており、そのアカウントが中国本土から使用され、機密情報が盗まれている。盗まれたデータの中にはアカウント情報が含まれており、そのアカウント情報が使用され、さらにデータを盗まれるという事態につながった」と話している。捜査は今もなお、粘り強く続けられている。
オフショア開発から抜け出せない日本のIT産業
中国人によるシステム開発は、海外の法人に開発や運用を委託するオフショア開発でも行われている。富士通の関連会社でもある別の会社では、受託した官公庁や金融機関のシステム開発を中国系の会社に再発注し、北京にあるソフトウエア開発会社で開発している。
この関連会社では、日本には通信を中継する代理サーバー(プロキシサーバー)しか置かず、中国人が北京のデータセンターのサーバーにダイレクトにアクセスして、システムを保守しているようだ。
古い統計だが、情報処理推進機構が発行している「IT人材白書2013」には、12年の調査でオフショア開発発注先相手国実績として中国が83.6%で1位に挙げられており、2位のインド(19.2%)、3位のベトナム(19.2%)を大きく引き離している。この傾向は、統計をとり始めた08年からほとんど変わっていない。現在では、より賃金の安いベトナムやミャンマーなどへシフトしているようだが、依然として中国の1位は変わっていない。
日本はシステムの開発コストを削減するために1990年代以降、中国へのオフショア開発を進めてきた。多くの日本の大手IT企業は、ソフトウエアの品質を高めるためにソフトウエアの開発工程を分割し、下流工程のプログラミングやテストを中国へ発注していた。
ただ、下流工程の委託だけでは中国人技術者が設計に参加していないため、どのような目的で使われるソフトウエアなのか理解せずにプログラミングされてしまい、バグ(プログラムの瑕疵)が頻発するようになる。そこで中国人技術者を日本に呼んで、開発経験を積んだ日本人システムエンジニアの指導のもとに、徹底したシステム開発の教育を行うようになった。
そして2000年代になると外部設計などの上流工程も中国へ発注するようになったのである。こうした開発プロセスを通じて中国への技術移転が進み、今日の中国のソフトウエア大国の地位が築かれていったのである。