それはまるで、この日だけの特別な儀式のようなもので、ワクワク感や高揚感があった。15年ごろからは、スマホでの購入も増加。珍しい目玉商品が売り出されたり、定価では買えなかった商品が販売されたりするため、ダブルイレブンが近づくとソワソワする人が増え、セール後、大量の商品が各マンションに届けられる光景は、まさにこの季節ならではの風物詩だった。
しかし、それから10年以上もの月日が経ち、20年から新型コロナが大流行した。セールは続いていたものの、徐々に景気は悪化。今年6月には若者(16~24歳)の失業率が過去最悪の21.3%となり、7月以降は失業率を公表しないことが政府から発表されるほど深刻になった。
中小企業の倒産は約400万社に上り、不動産価格も下落した。こうした経済的な背景から、消費者の財布のひもは固くなった。
Z世代を中心に起きる消費の多様化
中国のSNSの投稿やコメント欄などを見るかぎり、「独身の日だから」といって、浮かれて浪費している人はあまり見かけなかった。中国に在住する筆者の20代の知り合いにも購入について聞いてみたが、「家で飼っている猫のエサをまとめ買いした」「洗剤やタオル、食用油、衣服を少し買っただけ」といった人が多く、高額商品に手を伸ばした人は少なかった。
上海に住む20代の知り合いの会社員は次のように語る。
「自分は大型連休を使って中国国内を旅行したり、食べ歩きをしたりするのが好きで、そういうところにお金を使っています。ほかにはスポーツジムに通っているので、物欲はだんだんなくなってきました。
家も賃貸マンションで狭いので、家具もあまり必要ないし、家電はまだ使えるものが多いので、わざわざ新調しない。高級時計などの趣味もありません。
以前はセール自体、かなり盛り上がったので、とくに必要のないものでも、皆につられて勢いで買ってしまったことがありましたが、コロナ以降、あまりモノを欲しいと思わなくなりました」
この会社員のように、都市部の若者の中には、見栄を張れるような時計や宝飾品などよりも、自分の趣味にお金を使いたいという人が増えている。旅行などではモノ消費よりコト消費に移って久しく、それは海外旅行だけでなく国内旅行でも同様だ。キャンプブームなどはその典型的な例だろう。
また、消費者の意識も多様化が進んでいて、大勢の人が同じ商品に飛びつくといった傾向も減ってきていると筆者は感じる。他人が持っているから自分も持たないと恥ずかしい、といった中国人的な意識は、とくにZ世代の若者の間では薄れている。