「科学的発展観」が議題になる異常な事態
「科学的発展観の学習綱要」を党全体に配布するということは、各地方や各部門に対し「科学的発展観」を学習するよう指示するということである。
2012年11月に総書記に就任してからの習が「科学的発展観」に言及する機会は多くない。新しいリーダーが権威を確立するために前任者を否定することはよくあることである。目指すところは胡と同じであっても、習近平にしてみれば前任者の代名詞を使いたくはない。
さらに、習は総書記就任直後に、「科学的発展観」に取って替えるかのように「中国の夢」というスローガンを打ち出した。今ではその言葉は習の代名詞として定着している。また、今年6月からは「党の大衆路線教育実践活動」という政治キャンペーンを展開し、各地方や各部門に習の発言、演説の学習を指示している。これも習の求心力を高めることが目的である。
このように習が自らの権威を高めるための「仕掛け」を進めている最中に、党の重要な会議で「科学的発展観」が議題になり、しかも「学習綱要」という文書が作成された。さらに胡が好んで使った「人を基本とする(以人為本)」という言葉も登場した。これは普通の事態ではないと思わざるを得ない。
胡錦濤の逆襲か
この会議の記事を見たとき、1つのことが頭を過ぎった。2002年に総書記に就任した胡も、前任者の江沢民の代名詞とも言える「『3つの代表』重要思想」への言及をできるだけ避け、江が推し進めた高度経済成長を否定するかのように2004年に「『調和社会』の構築」というスローガンを打ち出した。それに怒った江の部下で当時党の序列5位の曾慶紅らは2005年5月に「共産党員の先進性保持教育活動」という政治キャンペーンを打ち出し、「『3つの代表』重要思想」の実践を指示した。同年10月に胡は「科学的発展観」を提起したが、曾らの政治キャンペーンは2006年6月まで続いた。今回の「科学的発展観の学習綱要」が一瞬、習に対する胡の逆襲かと勘ぐった。
しかし、記事は「党史国史の学習」や「中華民族の偉大な復興という中国夢の実現」といった習の考え方にも触れており、習の方向性を真っ向から否定しようというものではない。むしろ「科学的発展観」と習の方向性の結びつきを強調している。そして何より今の胡に当時の江のような政治的な影響力はないだろう。