2024年12月4日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年1月8日

 フーシ派が重要な海上交通ルートを脅かすのを阻止できなかったことは、中東地域の更なる混乱をもたらし、太平洋を含む世界の他の地域に飛び火するであろう。フーシ派を抑止出来なければ、「われわれは誰をも抑止していない」(ミラー元米第5艦隊司令官談)ことになる。

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 上記社説が指摘する通り、バイデン大統領は、来年11月に大統領選挙を控えて、米国が国際紛争に巻き込まれることを恐れているのだろう。しかし、今回、多国籍軍を結成したということは、紅海の航行の自由が脅かされるという事態に対してバイデン政権も全く手をこまねいている訳に行かず、出来る限り大統領選挙への悪影響を避けつつフーシ派に対する実力行使を行う布石である可能性がある。米艦による南シナ海での「航行の自由作戦」が示す通り、「航行の自由」は米国にとり国益の問題であるからだ。

 実は、オバマ政権末期の2016年にもフーシ派は複数回、米軍艦をミサイルで攻撃し(いずれも成功せず)、報復として米軍は巡航ミサイルでフーシ派のレーダー・サイト3箇所を破壊したことがある。それを考えると、確かに米国は、多国籍軍など結成せずにさっさとフーシ派のミサイル関係施設を攻撃すれば良いのではないかとの上記社説の示唆には説得力がある。

 恐らく、多国籍軍が結成されても、フーシ派とその後ろ盾のイランは、バイデン大統領が国際紛争に巻き込まれるのを恐れているとみなして、怯まず、紅海での船舶攻撃を続けるであろう。では、どうしてバイデン政権は、迂遠な多国籍軍結成を行ったのであろうか。

 「多国籍軍」というのは、国際法的には、それ自体は何ら正統性を有するものでは無い。しかし、「多国籍軍」という言葉は、何となく公的な性格を帯びているというある種の誤解を生じさせる事が可能であろう。米国は、フーシ派の船舶攻撃に対して鉄槌を下すつもりだが、米国単独の行動であることを避け、フーシ派への攻撃は国際社会の意思だという形を取るために多国籍軍を結成したのではないだろうか。

米国・イラン衝突の危険は

 12月23日には、イランがインド洋上で日本の船会社が所有するタンカーを攻撃した。さらに、革命防衛隊の関係者が「地中海、すなわちジブラルタル海峡等の封鎖に直面する」と発言した由であり、航行の安全を巡る情勢が一層緊迫したことになる。

 イランは、イラン・イラク戦争中にイラクのイランのタンカーに対する攻撃を阻止するために関係の無い第三国船舶を攻撃して、国際的な圧力をイラクに掛けようとした前歴があるので、今回も国際海運を混乱させてイスラエルに対する国際圧力を高めようという戦略なのだろう。しかし、今回は、発生場所からイランが行った可能性が非常に高く、イラン側も、これまでより一歩踏み込んでリスクを取った形となり、イランと米国の直接衝突の危険性が一層高まったのではないかと懸念される。

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