2024年4月29日(月)

BBC News

2024年3月30日

ポーランドのドナルド・トゥスク首相は29日、欧州は「戦前の時代」に突入しており、ロシアの侵攻を受けるウクライナが敗れれば、欧州では誰も安心してはいられなくなると、はっきり警告した。

「誰も怖がらせたくはない。しかし、戦争はもはや過去の概念ではない」とトゥスク首相は欧州メディアに語った。「これは現実だ。2年以上前に始まったことだ」。

ロシアがウクライナに対して新たに、ミサイルによる集中砲火を行う中、トゥスク氏は警鐘を鳴らした。

ロシアはここ数週間、ウクライナへの砲撃を強めている。ウクライナ空軍は29日未明にかけてドローン(無人機)58機とミサイル26発を撃墜したと発表した。ウクライナのデニス・シュミハリ首相によると、同国の西部、中部、東部の6つの地域にあるエネルギーインフラが被害を受けた。

ウクライナの国営エネルギー会社「ウクルエネルゴ」は、ドニプロペトロウシク、ザポリッジャ、キロヴォグラードの3州で緊急停電の実施を発表し、電力の使用を制限するよう消費者に呼びかけた。同社は「ロシアによる夜通しの、ウクライナの発電所への大規模」を非難した。

欧州各国の自衛力強化を訴え

元欧州理事会議長のトゥスク氏は、ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールがジハーディスト(聖戦主義者)に襲撃された事件について、ウラジーミル・プーチン大統領が何の証拠もなしにウクライナによるものだと非難していることに言及。プーチン氏は「明らかに、ウクライナの民間の標的へのますます攻撃的な攻撃を、正当化する必要性を感じている」とした。

また、ロシアが25日に、昼間に初めて、極超音速ミサイルを使ってキーウを攻撃したことも指摘した。

昨年末にポーランド首相に返り咲いて以降、初めて応じた海外メディアのインタビューで、トゥスク氏は欧州各国の指導者たちに、自国の防衛力を強化するためさらに取り組むよう直接訴えかけた。

11月のアメリカ大統領選挙でジョー・バイデン現大統領とドナルド・トランプ前大統領のどちらが勝利するかに関係なく、欧州が軍事的にさらに自立すれば、アメリカにとってより魅力的なパートナーになり得ると、トゥスク氏は主張。

これは、欧州がアメリカからの軍事的自立を達成することでも、「NATO(北大西洋条約機構)に並立する別の構造」を作ることでもないとした。

ポーランドは現在、国内総生産(GDP)の4%を防衛費に充てている。NATOには、加盟国が一定の防衛努力をするためにGDP比2%を国防費に充てるという基準があり、欧州連合(EU)全体がEUの安全のために戦う心構えをすべきだとしている。

ロシアが他国を攻撃する可能性は

プーチン氏は今週、ロシア政府はNATO諸国に対する「攻撃的な意図はない」と述べた。それでも、ロシアがウクライナへの全面戦争を開始してから、西側諸国との関係は冷戦以来の最悪の水準にまで落ち込んでいる。

ロシアがポーランドやバルト三国、チェコを攻撃するのではないかとの考えは「まったくナンセンス」だと、プーチン氏は述べた。しかし、ウクライナが他国の飛行場から西側のF-16戦闘機を使用すれば、「場所がどこだろうと、正当な標的」となるとも警告した。

欧州が「戦前の時代」に突入したとトゥスク氏が警告するのは、今回が初めてではない。先のEU首脳会談でも、中道右派の欧州指導者たちに対して同様のメッセージを発していた。

しかし、スペインのペドロ・サンチェス首相が、市民は脅威を感じたいとは思っていないとして、EU首脳会議の声明で「戦争」という言葉を使わないよう各国首脳に求めていたことを、トゥスク氏は明らかにした。トゥスク氏は、欧州の中でも自分がいる地域では、戦争はもはや抽象的な考えではないと述べた。

「どんなシナリオもあり得る」

ウクライナに緊急の軍事援助を提供するよう求めるトゥスク氏は、この戦争におけるこれからの2年間が、あらゆることを決定づけるだろうと警告した。「我々は第2次世界大戦終結後で最も重大な瞬間を生きている」。

そして、いま最も心配なのは、「文字通り、どんなシナリオもあり得る」ということだとした

トゥスク氏は欧州の複数主要紙によるインタビューを受けながら、ポーランドの実家の壁に飾られている一枚の写真に言及した。写真には、同氏が生まれたグダニスクに近い、バルト海南部に面するソポトのビーチで笑う人々が写っていたという。

この写真は1939年8月31日に撮影されたもので、撮影から十数時間後、5キロ離れた場所で第2次世界大戦が始まった。

「特に若い世代には悲惨な話に聞こえるだろうが、我々は新しい時代の到来に、精神的に慣れておかなければならない。この戦前の時代に」

身も凍るような発言とは裏腹に、トゥスク氏が「欧州全体の精神的な真の革命」とするものについては、より楽観的だった。

2007~2014年の第1次トゥスク政権当時は、ポーランドとバルト三国以外の欧州指導者で、ロシアの潜在的な脅威を認識している人はほとんどいなかったという。

トゥスク氏は何人かの欧州指導者を称賛し、ポーランドとフランス、ドイツの3カ国による安全保障協力「ヴァイマール三角連合」の重要性を強調した。また、かつては平和主義と中立の模範国で、現在はNATO加盟国のスウェーデンとフィンランドについても言及した。

こうした中、今年2月にウクライナ軍総司令官に任命されたオレクサンドル・シルスキー将軍はウクライナ国営ウクルインフォルム通信に対し、ロシア軍が前線で、ウクライナ軍を「約6対1」で圧倒していると認めた。シルスキー氏が取材に応じるのはめずらしい。

「防衛部隊は現在、広大な前線全体で任務を遂行しているが、武器や弾薬はほとんど、あるいは全くない状態だ」とシルスキー氏は述べ、一部地域の状況は「緊迫」しているとした。

また、ウクライナは「十分な数の防空システムと砲弾」があれば「間違いなく維持できた」はずの領土を失ったとし、ウクライナは追加の援助とミサイルが届くことを望んでいると語った。

(英語記事 War a real threat and Europe not ready, warns Poland's Tusk

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cz9zqkgw1z5o


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