2024年4月30日(火)

BBC News

2024年4月14日

イランは現地時間14日未明、イスラエルに向けてドローンやミサイルを発射した。シリア・ダマスカスのイラン公館が4月1日に攻撃されたことへの反撃が、近く起きると予想されていた。イランが自国内からイスラエルを直接攻撃するのは、今回が初めて。イスラエルとイランの直接対決から中東全域を巻き込む地域戦争に拡大する危険が、広く懸念されている。

イスラエル国防軍のダニエル・ハガリ報道官は日本時間9時過ぎの時点で、イランがイスラエルに発射したドローンやミサイルは200以上だとテレビ放送された声明で明らかにした。

ハガリ少将によると、イランは殺人ドローン、巡航ミサイル、弾道ミサイルをイスラエルに撃ち込んだ。イスラエルの防空システムと地域の同盟諸国がミサイルやドローンの「大多数」をイスラエル領の外で撃墜したという。

イランとイスラエルの間の距離は、約1800キロ。イランによるドローンやミサイル発射の情報を得て、イスラエル、レバノン、イラクは領空を封鎖。シリアとヨルダンは防空システムを警戒態勢にした。

エルサレムで取材するBBCのヒューゴ・バシェーガ中東特派員は、「エルサレムでは現地時間午前1時45分ごろ(日本時間同7時45分ごろ)、空襲警報が鳴り始めた。防空システムがエルサレム上空で複数の飛来物を撃墜し、大きな爆発音が聞こえた。迎撃は複数回続き、そのたびに夜空が明るくなった」と報告した。

イランの革命防衛隊は声明で、この夜の攻撃は、在シリアのイラン大使館攻撃を含むイスラエルによる「度重なる犯罪」に反撃するものだと追認。作戦名は「真の約束」作戦だと明らかにした。攻撃の内容については、空軍がイスラエルの「特定の標的に数十のミサイルやドローン」を発射したという説明にとどまっている。

アメリカのジョー・バイデン大統領は日本時間14日朝、「イランによるイスラエル攻撃の最新状況について、安全保障担当チームとたったいま会合を開いた。イランとその代理勢力がイスラエルを脅かすなか、イスラエルの安全保障を重視する我々の姿勢は鉄壁だ」と、ソーシャルメディア「X(旧ツイッター)」に書いた。

さらにその後、バイデン氏はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と電話で会談したうえで、イランによる攻撃を「最大限の強い表現で非難する」と声明を発表。「イスラエルに向かうドローンやミサイルのほぼすべてをイスラエルが撃墜」する上でアメリカ軍がそれを支援したと述べた。

大統領は、「先週にかけて」米軍機や弾道ミサイル撃墜のための爆撃機を地域に移動させるよう命令していたのだと明らかにした。

さらにバイデン氏は、主要7カ国の首脳と14日に協議し、イランの攻撃に対する「まとまった外国的な対応を調整する」とも述べた。

国連の安全保障理事会は14日夕に、イスラエルの要請を受けて、今回の攻撃について緊急会合を開くことになった。

BBCのリーズ・ドゥセット主任国際編集委員は、今回の攻撃がイランの代理勢力ではなく、イランそのものによる点の重要性を強調。「イランとイスラエルは何十年も隠然と戦ってきたが、イランが自国内からイスラエルを直接標的にするのは、これが初めてだ」と指摘し、中東情勢が「予測が難しく、リスクにまみれた未知の領域」にさしかかったと説明する。

「危険なエスカレーション」「これで決着」

イスラエルのハガリ少将は、「イランがイラン領内からイスラエル国家に対して、直接攻撃を実施した」と発表。「イランがイスラエルに送り込むイランの殺人ドローンを、我々は注視している。これは重大で危険なエスカレーション(事態の激化)だ」と、ハガリ少将は述べた。

少将によると、イランの複数のミサイルがイスラエル領内に着弾し、一カ所の軍事施設は軽度の損傷を受けた。具体的にどの軍事施設なのかは、明らかにしなかった。人的被害については、今のところ1人が負傷したという報告しか受けていないと述べた。

負傷者についての詳細を少将は説明しなかったが、イスラエルの救急当局はこれに先立ち、南部アラドで10歳の女の子が落下する破片で負傷し、手当てを受けていると明らかにしていた。

イランの国連代表部は「X」で、イスラエルへの攻撃について、自衛権を規定した国連憲章第51条に基づいたものだと説明。今月1日の在シリア・大使館攻撃について、「イランの軍事行動は、シオニズム政権がダマスカスで我々の外交施設を侵略したことへの反応だった。この件はこれで決着したとみなすことができる」と述べた。

そのうえで同代表部は、「仮にイスラエルの政権がまた過ちを犯すならば、イランの反応は今回よりもはるかに厳しいものになる。これはイランと、ならずもののイスラエル政権との紛争であって、アメリカは近寄ってはならない!」と強調した。

イランは、軍幹部が死亡した4月1日の在シリア・イラン大使館施設への攻撃はイスラエルによるものだったと見ている。そのため、イランが報復攻撃を仕掛けるのではという懸念が高まっていた。

イスラエルは、イラン大使館への攻撃を認めも否定もしていない。

イランによるドローン攻撃が発表される直前、イスラエルのネタニヤフ首相は、自国の「防衛システムは作動」していると述べ、「防御でも攻撃でも、我々はあらゆるシナリオに備えて準備ができている。イスラエル国家は強い。イスラエル国防軍は強い。国民は強い」と強調していた。

高度の防空システムに安価なドローンを大量に

イランは今回、イスラエルの高度な防衛システムに安価なドローンを大量にぶつけることで機能不全に陥らせた上で、自国の巡航ミサイルが標的に到達しやすくなるよう、攻撃を組み立てたようだと、BBC番組「ニューズナイト」のジョー・インウッド国際担当編集委員は説明する。

イギリスの防衛コンサルタント会社「シビライン」のアナリスト、ジャスティン・クランプ氏は、これはほかでも実施されている戦術だと解説した。

「イランはウクライナで学んだことを参考にしているようだ。ウクライナでも同じように、相手の防空システムを圧倒するため、巡航ミサイルや弾道ミサイルとドローンが組み合わせて使われている」

イスラエルの強力な防空システムを突破するには、兵器の質だけでなく量も必要だとイランは判断したようだと、クランプ氏は話す。

ただし、この作戦が成功するとは限らないとも、クランプ氏は言う。「イスラエルはウクライナではない。アメリカ軍と、おそらくイギリス軍機が、迎撃を支援している。イスラエル空軍もきわめて有能だし、イスラエルにはさまざまな対ミサイル防衛システムがある。これを圧倒するのは難しい」。

【解説】やられたらやりかえす……全面的な地域戦争に至る恐れ――フランク・ガードナーBBC安全保障担当編集委員

イスラエル対イランとその代理勢力――という構図で長いことくすぶっていた紛争がいつか、片方の国が相手を直接攻撃することで、一気に激化(エスカレーション)するのではないかと、これこそ誰もが恐れていた展開だ。

もう2週間近く、イランの安全保障当局は4月1日にシリア・ダマスカスで起きた自国公館への攻撃にどう反応すべきかを、検討し続けていた。ダマスカス攻撃ではイラン軍幹部が数人殺されており、イスラエルによるものと広く受け止めらていた。

イランの在外公館とはつまりイラン領だ。これを攻撃し全壊させるほどの大規模なエスカレーションには、エスカレーションで応える必要があると、イランがそう判断したのは明らかだ。

イスラエルは何重にも重なる防空態勢を備えている。そして、自国領土への攻撃には反撃すると誓っているし、そうするはずだ。

やられたらやりかえすというこの攻撃と反撃の応酬が、中東地域全体を巻き込む全面戦争にエスカレートする危険が迫っている。それこそが、昨年10月7日にイスラム勢力ハマスがイスラエルに奇襲攻撃を実施して以来、中東各国の政府が恐れてきた状況だ。

(英語記事 Israel's Netanyahu says defences are 'ready' as Iran attacks

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/crgyzynml1jo


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