米国のバイデン大統領は、3月9日に2024会計年度(23年10月~24年9月)の予算教書を発表する。予算教書とは、一般教書、大統領経済報告と並ぶ三大教書の一つである。大統領が連邦議会に提出する次会計年度の予算案で、政権運営の方針を示すものだとされ、その発表は米国内外で大きく報じられる。
予算案を提出できない大統領の方針表明
では、予算教書とは一体どのようなものなのだろうか。これを知るためには、まず米国の国家予算がどのように決められているかを知る必要があるだろう。
米国では予算は法律として決定される。したがって、通常の法律と同様に、法案が連邦議会の上下両院を通過し、大統領がそれに署名した場合、初めて予算として成立するのである。
予算を作成する中心的な場は連邦議会であり、大統領は法案提出権すらないのだ。ニュース番組を見たり、米国の歴史の本を読んだりしている時に、時折「XX政権が予算を成立させた」という説明があって面食らうことがあるが、そのような説明は間違いだ。政権とは行政部門である内閣を指すが、米国の内閣は法案提出権を持たないからだ。
なぜそのような間違いが発生するかといえば、米国の大統領制が日本の議院内閣制と異なっている点について、誤解があるためだと思われる。日本では、内閣の構成員(閣僚)の過半数を国会議員で構成することになっているため、行政部門である内閣の構成員も立法部門(国会)の議員でもあるため、内閣が法案提出権を持っている。他方、大統領制を採用する米国では、行政部門と立法部門の兼職は認められていない。
議院内閣制では、立法部門と行政部門の権力が融合しているのに対し、大統領制は権力分立が徹底しているといわれる所以だが、行政部門は法案提出権を持っていないのだ。例外として副大統領が連邦議会の上院の議長を務めることが合衆国憲法で定められているが、副大統領が議会で権力を行使するのは権力分立の原則に反するとの考えから、副大統領は議長代行を指名し、本人が議場に現れることはほとんどない(上院で法案の賛否が同数の場合にのみ決定票を投じに来る)ので、副大統領が予算案を提出することも全く想定されていない。
とはいえ、実際に予算を執行するのは行政部門であり、大統領が政策を実施したいと考えても予算が全くない状態では政権運営に支障をきたす。したがって、大統領は必要と考える政策と、その歳入・歳出の見積もりを議会に提示することになっている。これが予算教書の目的である。
連邦議会にとっても、大統領が提示する予算教書の内容は重要だ。大統領は予算法案に対しても拒否権を持っているため、大統領の意向にある程度配慮が必要だからだ。