その場合の非難は、大統領だけではなく連邦議会に対しても向けられる。大統領が予算教書を出すことで、実施されるべき政策について議論を開始することには、重要な意味があるのだ。
なお、このような通常の予算以外にも、補正予算法案や緊急補正予算法案が作られることもあるのは、言うまでもないだろう。
2024会計年度予算の見どころは?
連邦政府の活動は膨大なので、予算教書でもさまざまな政策に関連する政権の方針が示される。それは、単に翌会計年度の政権方針を示すのにとどまらず、中長期的な財政運営の方針や、外交、国防に関する方針も盛り込まれることになる。その中でも、今回の予算教書に関して注目すべき点を二点だけ、紹介することにしよう。
第一に、高齢者向けの公的医療保険(メディケア)に対する高所得者の保険料増額が盛り込まれる見込みである。バイデン大統領は3月7日付のニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、メディケアの予算を強化する必要性を強調している。年間所得が40万ドル(約5400万円)を超える納税者に対するメディケアの税率を現在の3.8%から5%に引き上げるとのことだが、増税の方針が示されるのは重要だ。
予算教書では、「10年以内に財政収支を均衡される」というような記述を含めるのがある意味お約束となっている。それが可能なのは今後米国で経済成長が見込まれるから、という形で高めの成長見込みが示されるのが一般的である。逆に言えば、予算教書を読む側は、その数値を真に受けてはいけないことになる。しかも、米国政治では増税について語るのがタブーとされる時期が長かった。
だが、バイデン政権になってから、富裕層を対象とした増税が積極的に検討されるようになった。バーニー・サンダースらに代表される経済左派による社会政策拡充要求に応えているという面もあるが、そもそも近年の米国では、支出中に義務的支出(年金や高齢者医療保険、国防費や国債の利払いなど削減が困難なもの)の割合が増えて裁量的支出の割合が減少しているため、何らかの増税が必要というのが多くの財政専門家の認識だ。
バイデン政権がこのような姿勢を示しているのは、実はすごいことなのだ。なお、ここで富裕層とされている人々の年間所得が40万ドルであり、日本で「富裕層に増税しろ」という時に想定されている額よりは相当大きいことも、念頭に置いた方がよいかもしれない。
第二に、ウクライナ関係の予算としてどれほどの額が提示されるかにも注意する必要があるだろう。バイデン大統領はウクライナに対する支援を継続する旨繰り返し発言しているが、米国世論も「支援疲れ」の傾向を示し始めている。そして、共和党内では高額の支援を継続することに否定的な立場を示す人が増大している。
特に、最近注目されている自由議連は、もともとは小さな政府の立場を強調していたティーパーティ運動の流れを引いていることもあり、高額支援には否定的だ。下院議長となったケヴィン・マッカーシーも就任前に、ウクライナに対して白紙小切手を切り続けることはないと発言していた。また、ジョシュ・ホーリー上院議員や、大統領選挙出馬が噂されているフロリダ州知事のロン・デサンティス氏らも現在の支援を継続することには否定的だ。
さらには、民主党内の左派も、本音では対外政策にほとんど関心を持っていないこともあり、ウクライナ支援には微妙な態度をとっている。このような中で、バイデン政権がどれほどの規模を示すかにも注目すべきだろう。