2月下旬にロシアのプーチン大統領が発表した「年次教書」は、その雄弁なレトリックとは裏腹に、ロシア指導部が終わりの見えないウクライナ侵攻をどう正当化するかに苦慮している様子が強く伺えるものだった。
プーチン氏は、ナチスと同類のウクライナを支えるのは西側諸国で、今回の戦争はロシアの破壊を狙う西側の企みに対抗するためと主張。欧米と経済が切り離されたことでロシアはむしろ発展したなどと述べ、経済面からも戦争を正当化した。そのうえで、国家のために戦う兵士を支えることが美徳だと訴えて、国民にさらなる犠牲を求める内容となっている。
しかし教書では、20万人ともいわれるロシア側の兵士が死傷し、終わりが一向に見えない戦況については一言も触れておらず、虚偽の主張も数多くちりばめられていた。2時間弱に及んだ演説からはむしろ、プーチン氏が置かれている苦境が浮かび上がっていた。
ナチス・ウクライナから〝歴史的領土〟を守る
「1年前、われわれはロシアの〝歴史的領土〟に住む人々を守り、ロシアからネオナチ政権による脅威を排除するために、特別軍事作戦を開始した」
プーチン氏の年次教書演説は冒頭から、従来の主張を繰り返す内容だった。2014年に発足したウクライナの親欧米政権は不当な「クーデター」で政権を奪取しており、同時に始まった東部での紛争は「ドンバスの人々による生存をかけた戦い」だったとして、東部住民の被害がウクライナ軍にもたらされたと強調している。
東部紛争にはロシア軍が介入していた事実が当時の報道からも明らかになっているが、プーチン氏は東部住民が「ロシアが来て、助けてくれることを願っていた」と主張し、あくまでも〝ウクライナの住民らが自ら〟蜂起し、ウクライナ軍に立ち向かったとのロジックに落とし込もうとしている。あくまでも東部住民とウクライナ軍の戦闘だと主張することで、戦禍に巻き込まれた東部住民の被害を、ウクライナ政府になすりつけている格好だ。
今回の戦争を正当化するためにロシア国内で作戦開始当初から使われてきたプロパガンダに忠実に沿った内容ともいえる。
プーチン氏はそこから、「背後では全く異なるプランが実施されていた」と述べ、欧米による陰謀が働いていたと説く。さらに「ウクライナ政府は公に核兵器を入手しようと試みたが、失敗した」「米国と北大西洋条約機構(NATO)は迅速に、彼らの基地と秘密の生物化学兵器研究所をロシア国境付近に設置した」などと根拠のない主張を展開。そして「西側はウクライナの政権を自在にコントロールし、全面戦争に引き込んだ」と述べて、ロシアが開始した全面戦争の責任を西側に転嫁してみせた。