2023年2月12日、TBSテレビの「ニュース深堀」で、〝プーチン氏の頭脳〟 とも云われる思想家ドゥーギン氏は次のように論じた。
プーチン大統領が始めたこの戦争は米国支配を打倒しロシアも並び立つ多極世界を作る文明史的な戦いである。ロシアが勝利するか、人類滅亡に至るかの2択しかない。ロシアが勝利しなければこの戦争はいつまでも続く。(TBSニュース深堀:“プーチンの頭脳” 思想家ドゥーギン氏初めて語る…「ロシアの勝利か人類滅亡かの二択」)
「多極世界を目指す文明の戦い」でロシアは欧米より優位に立っている。これがプーチン大統領の考えだ。かつてロシア外相であったコズイレフ氏はプーチン大統領自身がメルケル首相にこの思想を直接吹き込んだことがあるとして、こう書いている。
2014年11月豪州のブリスベンで開かれた主要20カ国(G20)サミットの場でメルケル首相はプーチン大統領と二人だけで会話をした。 ロシア大統領はメルケル首相に対し「欧米でのゲイカルチャーの広がり」を取り上げて民主主義の退廃を論難し、ロシアの価値体系は欧米より優れていると論じた。しかし、この発言を聞いて後にメルケル首相は「プーチンと云う人は西側とは決して和解出来ない人間だ」と悟ったと述べていた。(「Why Putin Must Be Defeated」Andrei Kozyrev、Journal of Democracy May, 2022)
察するに、メルケル首相はロシアでのゲイカルチャーの只ならぬ広がりを知っていたに違いない。そして鼻白む思いだったに違いない。
プーチン大統領の文明論の矛盾
メルケル首相を説得しようとしたロシアの文明的優位さとは一体何か? プリンストン大学のステファン・コトキン教授によれば、ロシア人は「特有の文明と特別な世界的使命を持っている神聖帝国」だとする「自己イメージ」を持っていると云う(「The Cold War Never Ended」Stephen Kotkin、May/June 2022)。これが結局、ロシア人に文明的な優位感と帝国主義的な指向性を与えているようだ。
そして、それが自分、つまりプーチン氏のような個人と少数の仲間(オリガルヒ)が秘密警察と組んで全てを支配し、西側の民主主義よりも文明的に先を行く世界を目指すと云う観念に繋がっているらしい。
しかし「文明」を問題にするなら、どうしてこれだけ非人道的で残虐なことをするのか? 文明を問題にするなら何故国際法をいとも簡単に踏みにじって隣国を武力で攻撃するのか? 何故普通の罪なき人々を殺戮し、その生活を無残に破壊するのか?