自国の囚人を監獄から連れ出し、ロクな訓練も無しに戦場に引っ張り出し、恐怖に怯えて少しでも怯んだら背後からロシア人の職業兵士が射殺する。他の囚人兵士への見せつけの為だ。今月、ある将軍の大金横領の事実を知っている軍管区の女性職員はサンクトペテルブルグの高層ビルから飛び降り自殺した。いや、突き落とされたのだろう。この国はそう云う文明なのだ。
また、今どきどんな国でも国民の不満が募れば抗議デモの一つや二つはやる。しかし、ウクライナ侵攻でデモ一つせずに黙って国外に去る100万人近いロシア人。「自分は関与したくない」と云う気持ち。そこは分るが、ドゥーギン氏の云う「勝利するロシア文明」とどういう関係に立つのか?
自由主義より優れた文明とは?
ドゥーギン氏の云う通り、ロシア文明が勝利するとしてそれが世界に何をもたらすのか? どの価値観でロシアは世界をリードするのか? リベラル・オーダーを凌駕する優れたシステムが登場してくるのか? その点についてビジョンが示されたことは全く無い。ロシア国内で研究された形跡も無い。
抑々ロシアでは甲論乙駁が許されていない。異論に対して議論し、共通項を構築し、失敗したら学習する。そんな柔軟性はない。のみならず、強権が真実を打倒するから、ウソが罷り通る。優れた文明の体系が生まれてくる素地は無さそうだ。
そして底なしに非効率。残酷なシステムの下でしらけ切っている国民。最近は小学校でも国旗の掲揚もやらなくなったらしい。活力よりも無力感が広がっている社会。国民は奮い立ち、鼓舞される機会を求めている筈だが、そう云う喜びが与えられることは無い。モスクワにあるカーネギー平和財団などの多くの議論に当たっているとおよそそう云うことのようだ。
ロシアのエネルギー輸出に暗雲
文明などを論ずる前に、ロシアは現実を直視するべきだろう。私見ではロシアは負け始めている。
典型的な例はエネルギーだ。外ならぬエネルギーはロシア経済の基盤を支える最重要資源だ。連邦予算の45%を化石燃料から得ている石油国家だ。そして輸出先の多くは欧州だ。ロシア産石炭の3割、石油の5割、天然ガスの7割をヨーロッパ諸国に輸出している。
しかし、当の欧州は昨年2月24日にウクライナ侵攻が始まると直ちに重大な危機を認識し、最大至急で対応した。侵攻直後、国際エネルギー機関(IEA)の意見に基づき、欧州連合(EU)は直ちに『ロシア産エネルギー依存からの脱却』に向けて10項目の対策を決めた(「EUで進む『ロシア産エネルギー依存』からの脱却」三井住友DSアセットマネジメント、2022年3月16日)。
欧州委員会は5月18日、具体的な政策文書を公表した。ロシアからの天然ガスや石油、石炭の輸入を最大至急で廃止することになったのだ。