欧州は驚くべき迅速さで省エネ強化と再生可能エネルギーへの大転換を決めた。要するにロシアが始めた「文明の戦争」のせいで、欧州は内部で徹底した議論を行い、「脱炭素持続成長」と云う新文明を素早く手にしたと云うことだ。
その結果、ロシアは自国産のガスなどの最大の顧客と外貨収入の6割を一気に失うことになった。他に競争力のある輸出品は皆無に等しいロシアにとっては国家的な痛手だ。
この先は、誰であれ化石燃料を買ってくれる国、例えば中国やインドなどに買い叩かれてやっと収入を確保することになる。不安定極まりないし、大国ロシアにとっては不名誉だ。中国への従属が一層強まった。
人口も減り始める
もう一つの例は人口減少だ。元々ロシアは深刻な人口問題を抱えていた(「ロシアの人口動態」雲和広)(「侵攻ロシアが直面する人口減と経済悪化の悪循環」日本経済新聞、2022年4月5日)。1990年代のソ連邦崩壊後の混乱の中で、ロシアの出生率は女性一人当たり1.2人にまで落ち込んだ。人口が安定的に推移するために必要な2.1人をはるかに下回ったのだ。その影響は現在でも現れており、30〜34歳(ソ連崩壊直前生まれ)のロシア人は1200万人いるのに対し、20〜24歳(ソ連崩壊後の混乱期生まれ)は700万人に過ぎない。
ロシアの人口減少の問題は以前から深刻だった。それが大統領の大国意識を痛く傷つけてきた。
だから過去10年間、大統領は新婚の母親に国庫から贅沢な報酬を提供してきたのだ。しかし今回の戦争で若年層の死者の規模は大きく、人口の減少傾向を加速している。開戦を決めたことで大統領は自らの手でロシアの長期利益を毀損したのだ。
「ロシアの勝利か人類滅亡」は本当か?
国際社会でドゥーギン氏のこの「2択論」をまともに受け入れる人はいないだろう。米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院の教授で戦略国際問題研究所(CSIS)で戦略分野のトップであるエリオット・コーエン教授はロシアの将来を醒めた目で長く論じた後、こう述べている。「将来、ロシアが常に恐れ、うらやみ、そしてひそかに称賛してきた西側世界の中に、自国の将来を発見することができるかもしれない」(「ウ侵攻で露呈したロシアの本質、予想される未来はシェア」Eliot A. Cohen、2022 年12 月21 日)。
これはドゥーギン氏が示唆するロシアのビジョンとは全く違うシナリオだ。ロシア人自身が密かに賞賛してきた西側自由社会の一員になってこそロシアの将来は明るいものになる。黙って国境を超える有能なロシア人を押しとどめる価値体系をロシアは手にするに違いない。
ドゥーギン氏の「2択論」はあり得ないが、別の指導者がプーチン氏の政策を継続する。これは理論上あり得るが長続きはしないだろう。
しかし、ロシアが本当に脱プーチンを実現したら、世界のリベラル・オーダーは必ず全面的で大規模なロシア支援に廻るだろう。既にその議論は多くの論者が始めている。ロシアと西欧の一体化も当然のこととして議論されている(「Putin Is Going to Lose His War」 And the World Should Prepare for Instability in Russia” Anders Aslund、May 25, 2022)(「The EU’s Relations With a Future Democratic Russia」Wilfred Martens Centre for European Studies, July 2022)。 ある専門家は西側が寛大な了見でロシアに対応したらロシアの西欧への統合は可能だと力説している(「What Could Come Next? Assessing the Putin Regime's Stability and Western Policy Options」Max Bergmann、January 20, 2023)。
実際のところ、ロシアが脱プーチンで生まれ変わればロシアは民主化に向かうことになろう。 その場合にはロシア全土で民主主義連邦国家になると云う。