昨年2月にロシアが戦闘を開始した直後は、ロシア側は数日でキーウ制圧に成功するとの見立てをしていたが、その見立てに反し、戦争は1年を超えた。プーチン政権は30万人規模の国民の大規模動員に手を出さざるを得ず、それでも戦況が妥協できない状態に、国民は強いフラストレーションを感じている。
プーチン氏のロジックからは、戦争は〝西側がウクライナを支えているからこそ苦戦している〟との主張につながる。戦争の責任を全面的に欧米諸国に押し付ける狙いが鮮明に浮かび上がる。
ロシア国民に向けた領土拡張の詭弁
プーチン氏がウクライナを「歴史的領土」と位置付けた点も注目される。プーチン氏は「オーストラリア・ハンガリー帝国とポーランドは、現在はウクライナと呼ばれる、歴史的領土をロシアから奪うことを思いついた。何も新しいことはない。彼ら(西欧)は同じことを繰り返しているだけだ」と主張した。
プーチン氏がウクライナの一部か、または全体について言及しているかは不透明だが、ウクライナ=ロシアの領土と、ロシア国民の意識に刷り込む狙いが伺える。明確にウクライナをロシアの「歴史的領土」と位置づけ、ロシアはそれを取り返そうとしている事実は注目に値する。
ソ連崩壊でロシアを含む旧ソ連各国が独立した事実を無視し、都合のよい過去を引き合いに〝歴史的領土〟と言い放つ。プーチン氏の主張は、領土拡張を正当化する究極の詭弁といえる。
プーチン氏はさらに「われわれはウクライナ人と戦争をしているのではない。ウクライナ人は、その政権と、西側の人質になっている」とまで言い切ってみせた。ロシア軍による攻撃で街や生活基盤を破壊され、家族や友人を失いながら懸命に戦い続けるウクライナの人々にとり聞くに堪えない内容だが、プーチン氏は意に介さない。
ただ、同氏の主張は一方で、多くのロシア人の考えを〝汲んで〟いる点にも注意を払う必要がある。ロシア人は、隣国であるウクライナに侵略をしているという事実から目をそらしたいと思っており、欧米に責任をなすりつける論理は、傷心のロシア人に心地よく聞こえるのは間違いない。プーチン氏には、国際社会からの批判に反論する意図などなく、年次教書も、国民の意見をコントロールすることが主眼である実態が鮮明に浮かび上がる。
戦争支持の姿勢を〝称賛〟
そのうえでプーチン氏は、自国民の〝戦争支持〟姿勢への称賛をくりかえす。
「私は誇りに思う。その思いは皆が共有している。この他民族国家において、圧倒的多数の市民らが、特別軍事作戦に厳然とした姿勢(支持)を表明したという事実を。彼らは、私たちが何をなそうとしているのかを理解し、ドンバスを守ろうとしている行動を支持してくれているのだ」と呼び掛け、特に戦場で慰問活動を行う文化人や前線を取材するロシアのジャーナリスト、教師、聖職者らに感謝してみせた。これらの職業人らは、戦争遂行にも重要な役割を担っており、彼らをことさらに称賛することで戦争支持の重要性を訴える思惑が伺える。
さらにプーチン氏は、占領下におくウクライナ東部ドネツク、ルガンスク州、さらに南部のザポロジエ、ヘルソン州の住民に対し「ネオナチの脅しにもかかわらず、住民投票で明確に意志を表明した私の親友たちよ。あなた方が母なる国、ロシアとともに生きようとする意志は、何よりも強い」と言い切って見せた。
軍事侵攻で領土の占領を進めている事実を糊塗して、ウクライナの4州の人々が〝すすんで〟ロシアに加入したと強弁している。ロシア軍が侵攻して領土を拡張している事実はロシア人の目から見ても明らかだが、このように主張することで、侵攻への批判を許さない社会的な空気を一層強める効果が狙える。