2024年4月20日(土)

キーワードから学ぶアメリカ

2023年3月9日

長い道のりの予算編成と可決

 米国では会計年度が10月から翌年9月となっているが、予算教書は2月上旬に出されることが多い。逆に言えば、予算教書が出されてから予算案が通るまでには半年以上時間がかかると想定されているということだ(ただし後述する通り、近年では会計年度開始前に予算が通らないことが多い)。

 では、具体的にはどのように予算法案は作成されるのだろうか。まずは、大統領が出した予算教書を参考にしつつ、上下両院の予算委員会で大まかな方針を示したうえで、上下両院で調整を行う。その調整案を基に、今度は上下両院の歳出委員会で詳細に検討する。

 その際には、運輸、農業、労働、防衛など、分野ごとに設けられた小委員会を単位に、公聴会なども開催しつつ、予算案を作成する。それが連邦議会の上下両院の本会議に提出されて、審議、可決するという流れになっている。

 だが、連邦議会の両院で可決する法案が同一であることは、通例ない。日本の場合は、予算については衆議院の優越が定められている。したがって、参議院が衆議院と異なる議決をし、両院協議会を開いても意見が一致しないとき、あるいは、参議院が衆議院の議決を受け取った後30日以内に議決しない時には、衆議院の議決がそのまま国会の議決となる。だが、米国の場合は、各院が可決した法案を両院で調整し、調整案を両院で再度審議、可決する必要があるのだ。

 そしてようやく、両院を通過した法案が大統領に送られ、大統領が署名した場合に予算法案が成立する。もし大統領が予算案に対して拒否権を発動した場合、予算案は議会に送り返されることになる。

 拒否権を発動された法案を上下両院がともに3分の2以上の特別多数で再可決した場合、大統領はその法案を拒否することはできない。だが、いずれか一院でも3分の2以上の多数で可決できない場合は、上述のプロセスを、大統領が署名するまで繰り返すことになる。

「政府閉鎖」の危険性も

 このように考えると、予算法案を通過させるのは非常に困難なことがわかるだろう。連邦議会上下両院の多数派と大統領の所属政党の全てが一致している場合(統一政府と呼ばれる)ならばまだしも、一つでも政党が異なる場合(分割政府と呼ばれる)には、予算審議はとりわけ難航する。その結果として、会計年度開始までに予算が確定しない事態も発生するのだ。

 通常の予算法案が可決されない場合は、暫定予算を組むことになる。だが、暫定予算法案が通過しない場合や、期限切れになった場合には、行政機能を停止するより他なくなる。

 従軍中の兵士や刑務官の仕事などは継続されるが(ただし給与の支払いは暫定予算で認められるまでは行われない)、国立公園が閉鎖されたり、パスポートの発給に関わる手続きが遅れたりするなど、さまざまな政府機能が滞ることになる。

 いずれにせよ、予算が決まらないと連邦政府は動けなくなる。連邦議会が大統領とは全く異なる方針で予算案を作ったとしても、大統領が拒否権を発動する事態となれば、政府が一時閉鎖することになる。


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