2024年4月30日(火)

BBC News

2024年4月13日

フランク・ガードナー BBC安全保障担当編集委員

英統合軍の元司令官、サー・リチャード・バロンズは、ウクライナが2024年にロシアに対して敗北するかもしれないとBBCに話した。

バロンズ将軍は、ウクライナが今年負ける「深刻なリスク」があるとBBCに述べた。「自分たちは勝てないと、ウクライナが思うようになるかもしれないからだ」と、将軍は理由を説明した。

「その状態にウクライナが達した時点で、守り切れないものを守るだけのために戦い、死ぬことを、大勢が望むだろうか」

ウクライナはまだその状態に達していない。

しかし、ウクライナ軍の持つ砲弾や人員や防空能力は、危機的な状態まで枯渇(こかつ)しつつある。大いに期待された昨年の反転攻勢は、ロシア軍を占領地域から追い出すには至らず、ロシア政府は今や今年夏の攻勢に向けて準備を本格化させている。

では、ロシアの夏の攻勢はどういうものになるのか。その戦略上の目的は、何になるのか。

「想定されるロシア軍の攻勢がどういうものになるのか、それはかなりはっきりしている」と、バロンズ将軍は言う。

「前線のロシア軍は銃弾、砲弾、人員の数で5対1の比率で相手に勝っている。それに加えて、新しめの兵器の導入で、優勢が強化されている。これを利用してロシア軍は徹底的に(ウクライナ軍を)たたいている」

「新しめの兵器」には、FAB滑空爆弾も含まれる。旧ソヴィエト連邦時代の無誘導爆弾を改良したもので、安定翼やGPS誘導装置を備え、爆薬1500キロを積み、ウクライナ軍の防衛態勢を大混乱に陥れている。

「今年の夏、ロシア側がある時点で、大規模な攻勢を仕掛けると予想される。わずかに相手をたたいて前進するだけでなく、ウクライナ軍の前線を本格的に突破しようとするかもしれない」と、バロンズ将軍は話す。

「もしそうなれば、ロシア軍が突破侵入し、ウクライナ軍がそれを阻止できない位置までウクライナ領内に入り込み、それを拠点にして利用しようとするかもしれない」

しかしそれはどこなのか。

ロシア軍は昨年、ウクライナがどこから攻めてくるか、正確に予想していた。南部ザポリッジャからアゾフ海を目指す方向だ。これを正確に予想し、適切に備え、そしてウクライナの前進阻止を成功させた。

今度はロシアが攻勢に転じる番だ。ロシアは軍勢を集約しているが、次の攻撃局面がどこになるのかウクライナ政府は推測するしかない状態だ。

イギリス王立防衛安全保障研究所(RUSI)の上級研究員、ジャック・ワトリング博士は、「どこに部隊を集中させるか、ロシアには選択の余地がある。これはウクライナが抱える難題のひとつだ」と説明する。

「前線はとても長い。そしてウクライナはそのすべてを防衛しなくてはならない」

もちろんそんなことは無理だ。

「ウクライナ軍は地歩を失うことになる」と、ワトリング博士は言う。「問題は、どれだけ失うのか。そしてどの人口密集地がそれによって影響を受けるのか、だ」。

ロシア軍の参謀本部が、どの方向に勢力を集めるのかまだ決めていない可能性もかなりある。しかし、大まかに言って、3つの場所が可能性として考えられる。

ハルキウ

「ハルキウはもちろん、かなり危険な状態にある」と、ワトリング博士は言う。

ロシアとの国境に危ういほど近いウクライナ第二の都市は、ロシア政府にとって魅力的な目標だ。

現在は連日、ロシアのミサイルに砲撃されている。ドローン、巡航ミサイル、弾道ミサイルという殺傷力の高い組み合わせを阻止できるほどの防空力が、今のウクライナにはない。

「今年の攻勢は、ドンバス地方から飛び出すことを第一目標にすると思う」と、バロンズ将軍は言う。「そして、ロシア国境から約29キロにあるハルキウを手に入れられれば、大きな成果となる。それだけに、ロシア軍はハルキウに注目しているだろう」。

もしもハルキウを失ったとして、ウクライナはまとまった単一国家として機能し続けられるだろうか。それは可能だと、多くの専門家は言う。しかしそれでも、国民の士気と国の経済にとって、悲惨な打撃になるはずだ。

ドンバス

「ドンバス」と総称されるウクライナの東部地域は、2014年以来ずっとロシアと戦っている。ロシア政府に後押しされた独立勢力が当時、「人民共和国」を自称して以来のことだ。

2022年にはロシアが、この「ドンバス」を構成するドネツク州とルハンスク州の両方を違法に併合した。この1年半というもの地上戦のほとんどは、この地域で行われてきた。

ウクライナはこのドンバス地方で、まずはバフムート、続いてアウディイウカという二つの町を失わないようにするため、膨大な人員や資源を防衛戦につぎ込んだ。

その作戦には異論も多く、結果的に両方の町だけでなく、ウクライナ軍有数の優れた兵士を多く失った。

そうした批判に対してウクライナ政府は、自軍の徹底抗戦によってロシア軍は不相応なほど多くの兵士を失ったと反論している。

それも事実だ。この地域での戦場は「肉ひき機」とまで呼ばれている。

しかし、ロシア側には戦場に送り込める兵士がまだまだ大勢いる。ウクライナ側にはいない

アメリカ欧州軍のクリストファー・カヴォリ司令官は10日、米下院軍事委員会で証言し、アメリカがウクライナへの兵器・砲弾供給をかなり急がなければ、ウクライナ軍は戦場で10対1の劣勢に立たされると警告した。

物量は重要だ。ロシア軍は戦術も指揮系統も装備も、ウクライナ軍のそれに劣るかもしれない。しかし、(砲弾の数を含めて)数字の上であまりに優勢なので、たとえ今年ほかに何もしなかったとしても、ウクライナの村をひとつまたひとつと制圧し、ウクライナ軍を西へ西へと後退させることは最低限のデフォルトとして可能だ。

ザポリッジャ

ここもまたロシア政府にとって、魅力的な手柄だ。

ウクライナ南部ザポリッジャは、平時の人口は70万人以上。そして、ロシアの前線に危険なほど近い。

ザポリッジャはロシアにとって厄介なとげでもある。違法に併合したザポリッジャ州と同じ名前の州都だが、それでもいまだにウクライナ領で、住民は自由に暮らしているからだ。

しかし、ロシア軍自身が昨年、ウクライナ軍の攻勢ルートを正確に予測してザポリッジャ南部に強大な防衛線を築き上げたことが、今ではロシア軍の前進を難しくしている。

三重に設置された防衛線からなる、いわゆる「スロヴィキン・ライン」の周辺には世界最大の地雷原が広がる。今や世界で最も徹底的に地雷が敷設された場所だ。ロシアはこれを部分的に解体することもできるが、そうした準備作業はおそらく探知される。

ロシアの今年の戦略目標は、領土ですらないかもしれない。ただウクライナの戦意を喪失させ、ウクライナ敗戦はもはや決まったも同然だと西側諸国を説得さえすれば、ロシアにはそれで充分なのかもしれない。

「もはや望みはないという感覚を生み出すこと」がロシアの目標だろうと、ワトリング博士は考えている。

「今年のロシアの攻勢で、双方がどうなるとしても、この紛争を決定的に終結させるようなものにはならない」と博士は言う。

バロンズ将軍も同意見だ。確かにウクライナ軍はいま厳しい状況にあるが、ロシア軍がその優勢をてこに決定的な前進を果たせるかどうかは疑わしいと、将軍は見ている。

「ロシアは一定の戦果を得るものの、突破はできないというのが、おそらく最もあり得る結果だと思う」と将軍は話す。

「(ドニプロ)川まで一気に前進できるだけの、規模と能力の部隊はロシア側にない。(中略)それでも戦況はロシア有利に転じることになる」

確かなことがひとつある。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナ侵攻をやめるつもりなどまったくない。

ポーカーの勝負で、手持ちのチップをすべてかけているプレイヤーのようだ。ウクライナが防衛に必要な装備を、西側は提供しない――それがプーチン氏にとって頼みの綱なのだ。

北大西洋条約機構(NATO)でどれだけ首脳会議が開かれても、どれだけあちこちで会合が開かれ、感動的な演説が相次いでも、プーチン氏の計算通りになる可能性がある。

(英語記事 Ukraine could face defeat in 2024. Here's how that might look

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c51nml7rvvko


新着記事

»もっと見る