オーストラリアの最大都市シドニーにあるショッピングセンターで13日、買い物客らが男に刃物で刺され、6人が死亡した。警察は15日、犯人が女性を標的にしていたのは「明らか」だとの見方を示した。
ジョエル・カウチ容疑者（40）は13日、買い物客らで混雑していた商業施設「ウェストフィールド・ボンダイ・ジャンクション」で、長い刃物で人々を刺し始めた。現場はパニックに陥った。
死亡した6人のうち5人は女性。赤ちゃん1人を含む複数人が負傷した。
ニューサウスウェールズ州警察のキャレン・ウェブ長官は豪ABCニュースに対し、カウチ容疑者が女性に狙いを定めていたの制止は「明らか」だと語った。
唯一の男性犠牲者は、容疑者を制止しようとした警備員のファラズ・タヒールさん（30）。タヒールさんはパキスタンからの難民で、オーストラリアに来てまだ「間もなかった」と、アンソニー・アルバニージー豪首相は15日放送の豪ラジオ「トリプルM」で明らかにした。
警察によるとほかに、ジェイド・ヤングさん（47）、ピクリア・ダルチアさん（55）、ドーン・シングルトンさん（25）、アシュリー・グッドさん（38）、そして20代と思われるチェン・イシュアンさんが殺害された。
女性を狙っていたのは「明らか」
「動画が物語っている。そう思いませんか？」と、州警察のウェブ長官は切り出した。「私には明らかにそう見える。刑事たちには明らかにそう見える。（中略）犯人は女性を狙い、男性を避けていた」。
「犯人が頭の中で何が働いていたのかは我々には分からない。だからこそ、刑事たちが犯人を知る人々への聞き込みに多くの時間を費やすことが重要だ」
アルバニージー首相もまた、「（犠牲者の）性別の内訳は当然、懸案事項だ」と豪ABCニュースに述べた。
この事件で負傷し病院に搬送された人のうち4人は退院した。ほかの8人の容態は重篤な人から安定している人まで様々で、引き続き治療を受けている。
容疑者に「精神疾患」
当局は当初、13日の事件はカウチ容疑者の「メンタルヘルスと関連」がある可能性が高いとしていた。同容疑者は現場で警察に射殺された。
カウチ容疑者はすでに警察に知られた存在だったが、地元クイーンズランド州では逮捕あるいは起訴されたことは一度もなかった。
クイーンズランド州警察によると、容疑者は17歳の時に初めて精神疾患があると診断された。数年間にわたり放浪生活を送っていたという。
容疑者の父アンドリュー・カウチさんは、自分の息子が精神疾患を患い、つい最近になって薬の服用をやめたばかりだったと報道陣に話した。
「皆さんにとって、彼はモンスターだろう。私にとって彼は、とても重い病気の男の子だった」と、父親は豪紙「オーストラリアン」が掲載した動画で語った。
息子が女性を標的にした可能性について質問されると、「（息子は）彼女が欲しくて、でも社交スキルがゼロで、もうこらえきれないくらい、いらだっていた」のだと、カウチさんは話した。
「壊滅的な日」
オーストラリアで最も人気な、最大規模のショッピングセンターの一つで起きた襲撃事件は、国中に衝撃を与えた。同国ではこれほどの大量殺人事件はめったにない。
「ニューサウスウェールズ州にとって壊滅的な日だ」と、同州のクリス・ミンズ知事は述べた。そして、警察の対応や、犯人が生前に政府機関とどのようなやり取りをしていたかについて、1800万豪ドル（約17億9000万円）をかけて調査するとも発表した。
また、ABCニュースのインタビューで、犠牲者6人を追悼するために、現場となったショッピングセンターに恒久的な記念碑を建てる可能性を示唆した。
15日にはオーストラリア各地で半旗が掲げられた。シドニー市内のオペラハウスでは犠牲者への追悼の意を表してライトアップが行われる予定。
ショッピングセンターには花やメッセージカードを手向けようと大勢の人が詰めかけた。
犠牲者について分かっていること
殺害されたグッドさんは、生後9カ月の娘を守ろうとして刺された。赤ちゃんも負傷し、数時間に及ぶ緊急手術が必要となった。州当局によると、術後に赤ちゃんの容体は著しく回復しているという。
「最も暗い時に、最も明るい光が差し込むこともある。そうなることを、国全体が固唾をのんで待っていた」と、ライアン・パーク保健相は15日に述べた。
シングルトンさんの勤め先は、「愛らしく、心優しい人で、彼女の人生はまだこれからだったのに」とソーシャルメディアに投稿した。
アルバニージー首相は6人目の犠牲者について、中国人留学生チェン・イーシュアンさんだと明らかにした。
チェンさんの家族は知らせを受けてオーストラリアに向かっていると、ABCニュースは伝えた。
（英語記事 'Obvious' Sydney killer targeted women - Australian police）
