というのも、この10年以来、毎年の多くの大学卒業生が就職できないという状況下では、中国が直面している難題は「労働力不足」よりも、むしろ「就職ポストの不足」であることがよく分かる。実際、「定年退職年齢の先延ばし」に反対する意見の最大の根拠の一つはまさに、「年寄りの定年退職年齢が5年も先伸ばされると、その分だけ、若者の就職ポストが減らされてしまう」ということである。
それでは、若者たちの就職難をさらに深刻化するような覚悟で「定年退職年齢の先延ばし策」を主張する理由は何であるかというと、それは結局、中国が現在抱えている深刻な「年金不足」の問題なのだ。
このままでは年金不払いや制度破綻は必至
中国の場合、一般国民の年金は現在、年金受取人たちの定年退職までの積立金の支払いによって成り立つものである。しかし、積立金制度の実施は1990年代に入ってからで、年数がまた浅いということもあり積み立ての総量はそれほど大きくはない。しかも、政府幹部が積立金を濫用し不動産投資を行うなどして失敗した結果、かなりの部分が既に流失していて穴埋めできない状況だ。
その結果、今、中国全体の年金の不足分は何と1兆3000億元(日本円21兆6000億円相当)になっている。このままでは、多くの人々が現政策の60歳で定年退職すると、年金の不払いの大量発生は必至とであり、社会的大混乱と年金制度そのものの破綻が起きてしまうであろう。
結局、中国共産党は自分たちの年金政策の失敗と幹部たちによる年金流用の罪を国民の目から逸らして覆い隠すために、そして年金の不払いによる社会的大混乱の発生を防ぐためには、まず一部の政府系研究機関を使って「定年退職年齢の先延ばし策」を「提言」させた上で、このような「提言」を受け入れるような形で、上述の3中総会の「決定」としてこの政策の制定を決めたわけである。
中国政府直属の研究機関の試算では、今の中国国民の定年退職年齢を一年先延ばしするだけで、年金の積み立て分は40億元増、そして年金の支払いは160億元減となるから、当面、年金制度の破綻は何とか避けられそうである。中国共産党政権の政策たるものは常に、このような無責任な急場しのぎ的なものであると感じる。