「子どもによる老後保障」へ
しかしこのような政策は急場しのぎとしての効果があっても、決定的な年金不足問題の解決につながらないことは当の共産党政権も知っているのである。実は、同じ3中総会の「決定」によって打ち出された一人っ子政策の緩和はまさに、年金不足問題への「根本的な解決策」として打ち出された政策の転換なのである。
つまり中国政府は、年金不足の問題それ自体の根本的な解決はもはや無理であると分かっているから、「年金による老後保障」から「子どもによる老後保障」へのシフトを図ろうとしている。この思惑こそ、一人っ子政策転換の最大の秘密なのである。
政権が覆い隠そうとしているその秘密を一言でバラしてしまったのは地方の専門家である。上述の3中総会の決定を受け、人口がもっとも多い河南省も一人っ子政策の緩和に踏み切ったが、それに対し、河南省にある鄭州大学応用社会研究所所長の張明鎖教授はメデイアの取材に応じて、「河南省が一人っ子政策を調整したことは、年金問題・老後問題への圧力を緩和させるのに大いに意味がある」と語った。
つまり、一人っ子政策が緩和されて、多くの家庭が子どもを一人でも多く持つことになると、親たちの老後は年金によってだけでなく、子どもの力によって支えられることが期待できる、というのである。
中国では昔から、子どもが両親の老後を扶養する義務があるという伝統的考えがあった。年金制度のなかった時代、子どもこそが老後の最大の保障であった。もちろんそのためには、一人っ子ではとても無理なので、子どもをたくさん作ることは中国人にとってもっとも重要な老後対策であった。
しかし、1970年代の末、中国政府は人口抑制の視点から「一人っ子政策」を実行していく中で、国民を納得させるために「政府養老(政府による老後保障)」というスローガンを持ち出して、「政府は今後、国民一人ひとりの老後を責任を持って保障するから、子どもをたくさん生まなくても良いよ」と、国民にアピールした。
もちろん、この「政府養老」というスローガンには何の裏付けもなく、単に国民に「一人っ子政策」を納得させるための方便であり、一種の詐欺である。案の定、一人っ子政策が実施されて30数年が経った今、政府は国民一人ひとりの老後を実際に保障できなくなっているのである。そこでやむを得ず、「一人っ子政策」の緩和を図ることによって、老後保障の責任を再び国民一人ひとりに押し付けようとしているのだ。
これがすなわち、中国共産党の3中総会が決定した「一人っ子政策緩和」の真の狙いである。
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