20年以上前から取引のある丸梅伊藤米店の伊藤秀信さんは「ほとんどのスーパーが買い叩いてくるが、一期家さんに値下げを求められたことは一度もない」と話す。卸値は他と比べて5キロあたり200円程度も高いが、安心して食べることができるお米を、との要望は揺るぎない。
生産者と価値観を共有し、良質な商品を仕入れたら、それを丁寧に紹介する。
「丸梅伊藤米店さんが今朝準備してくれた、つきたてのお米で作ったお寿司です!」
商品の作られ方や、作り手の努力を伝えることで、消費者は安さに代わる価値を感じ、値段に納得して買える。ここが低価格競争と一線を画す強みになっている。
一期家一笑の店内には、生産者の商品へのこだわりを伝える 手作りのPOPがずらり(撮影:編集部)
他にも、農家見学ツアーを開催し、顧客と生産者が直接交流できる場を提供したり、近隣の小学生に生産者の思いを伝えるなどの取り組みも積極的に行う。今や若い家族にも顧客層が広がってきている。
膨大な購買データや資本力を持つ大手は強い。しかし、小さな店には詳細な顧客情報と人間関係、組織に縛られない柔軟さがあり、マクロ経営では見えてこないニーズや物の価値に気づくことができる。
一期家店長の杉浦國男さんは「経営理念は特に持っていません。マニュアル化できない接客を目指し、いろいろ試みていますが、まだまだ道半ばです」と謙遜する。刻々と果てしなく変化する顧客ニーズに沿い続けることが命脈を保つ術と悟る、具眼の経営者の言葉である。
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