2024年4月24日(水)

科学で斬るスポーツ

2013年12月2日

新しい指示で集中力分散
否定語がで気後れ、不安に

 脳というのは新しい刺激、情報を好む。常に何かを求めていると言ってよい。身の危険を察知するなど外界の変化に対応するための本能と言ってよいだろう。これが勝負でも悪さをする。試合直前、あるいは試合中に新しいことを指示されると、そのことに集中力が分散され、本来心掛けていたことを忘れてしまう。例えば、柔道、レスリングなどでプレー中に監督が大声を出しているのをよく見かける。この時、全く新しい指示だと、そのことに気をとられ、本来の力がでないということもありうる。

 実際、林教授のアドバイスで、男子レスリングチームは、世界選手権でコーチがリングサイドからの指示を控え、好結果を残している。

 プレー中の否定語も同様だ。例えば、「きょうは、いつもと違うぞ」「(フィギュアスケートなどで)次は難しい技」「相手が強い」などと選手が思った瞬間、闘争心をなくし、気後れや体の硬さ、不安が芽生えてしまう。プレー中は自信満々でいることが大事だということだろう。

 これらの癖について 林教授は「人間には様々な本能がある。脳組織由来としては、『統一・一貫性の本能』『自己保存本能』『自我本能』がある。どれもスポーツのパフォーマンスに関係しているが、中でも統一・一貫性は重要だ。これを大事にする視点が必要」と語る。

脳が好む統一・一貫性

 統一・一貫性とは、首尾一貫したもの、継続的なもの、バランスのとれたものは美しいなどと感じる本能のことを言う。一流選手は、よいパフォーマンスを感覚的に捉えるが、反復練習で培われたわずかな違いを感知するのも統一・一貫性の本能によるものだ。一流でない我々も、同じルートで通勤したり、几帳面な性格がなかなか変えられなかったりするのもこの本能に基づく。

 実は先ほど触れた、脳の癖もこの本能と密接にかかわる。途中でゴールが近いと思ったり、プレー中に新しい指示を言われたりすると、「統一・一貫性本能」が崩され、「自己保存本能」が作用し、パフォーマンスが悪くなるのである。


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