2024年11月22日(金)

2024年米大統領選挙への道

2024年5月28日

評決の大統領選挙に対する影響

 前述のように、トランプ応援団であるMAGA(Make America Great Again: 米国を再び偉大にする)議員や知事が裁判所からトランプ擁護のメッセージを送ったが、米国民はこの裁判をどのようにみているのだろうか。

 米クイニピアック大学(東部コネチカット州)の全国世論調査(24年5月22日発表)によれば、トランプ前大統領の口止め料を巡る裁判を37%が「大変深刻」、23%が「いくらか深刻」と捉えており、「深刻」の合計が6割に達した。

 英誌エコノミストと世論調査会社ユーガブの全国共同世論調査(24年5月19~21日実施)では、「ドナルド・トランプに対する口止め料を巡る裁判でトランプは有罪になるべきか?」という質問に対して、45%が「はい」、38%が「いいえ」、17%が「分からない」と回答した。ところが、「有罪になると思うか?」と尋ねると、22%が「はい」、37%が「いいえ」、41%が「分からない」と答え、「はい」が23ポイントも下落した。12人の陪審員の中で、一人でも「反対」すれば、評決不能になり、トランプ前大統領は有罪を免れるので、トランプ有罪のハードルは高いと考えているのだろう。

 しかし、不倫相手であった元ポルノ女優に対する口止め料を巡る業務記録改ざんで、トランプ前大統領に有罪評決が出た場合、有権者はどのような投票行動をとるのだろうか。

 米クイニピアック大学が登録した有権者を対象に尋ねたところ、11%が「トランプに投票する可能性が高まる」、21%が「トランプに投票する可能性が下がる」、65%が「変わらない」と回答した。約2割がトランプ前大統領から逃げる可能性があることが分かった。バイデン大統領との選挙戦が接戦になれば、トランプ氏にとってこの2割は致命的になる公算が高い。

 米ABCニュースと調査会社IPSOSの全国共同世論調査(24年4月30日発表)では、11月5日にトランプ前大統領に投票すると回答した有権者の80%が、口止め料を巡る裁判で有罪評決が出ても「継続してトランプ支持」、16%が「トランプ支持を再考する」、4%が「トランプをもはや支持しない」と答えた。「再考」と「不支持」を合わせると、20%になり、トランプ前大統領が有罪になった場合、同前大統領は最高で支持者の2割の票を失う可能性がある。

 さらに、ロイターとIPSOSの全国共同論調査(24年4月4~8日実施)をみてみると、これまでに刑事訴追された4件の裁判で1件でも有罪評決が出れば、無党派層の6割が「トランプ前大統領に投票しない」と答えた。この数字もトランプ氏にかなりの打撃を与えることになる。

有罪の場合と評決不能の場合

 では、有罪ないし評決不能になった場合、トランプ前大統領とジョー・バイデン大統領はどのような選挙対策を講じるのだろうか。

 まず、有罪評決が出た場合、トランプ前大統領が控訴するのは確実だ。そして、「偽りの裁判だ」「魔女狩りだ」「バイデンは選挙介入をした」と主張し続けるだろう。2割の支持者をつなぎ止め、6割の無党派層を説得できるのかが鍵を握る。

 一方、バイデン大統領は、トランプ前大統領が有罪評決を受けた場合、6月27日に行われる予定の1回目のテレビ討論会で、トランプ氏の不正直さおよび信頼性の欠如を問題点として取り挙げ、有権者の目を同氏の性格に向けさせるだろう。特に、無党派層、女性、ヘイリー支持者を強く意識して、不正直で信頼のない人間としてトランプ前大統領を描く戦略を選ぶだろう。ニッキー・ヘイリー氏自身は、トランプ前大統領に投票すると表明したが、支持者が自動的に同前大統領に投票するとは限らないと付け加えた。

 バイデン大統領は、トランプ前大統領が不倫相手に対する口止め料を弁護士費用として計上し、16年米大統領選挙で不倫に関する不利な情報を隠蔽した事実を追及することになる。

 米ABCニュースとIPSOSの全国共同世論調査(前述)による信頼度に関する調査では、バイデン大統領がトランプ前大統領を16ポイントもリードしたからだ。また、米公共ラジオ、公共放送およびマリスト大学(東部ニューヨーク州)が、11月の選挙で必ず投票すると回答した有権者に限定して調査(24年4月22~25日実施)を行ったところ、バイデン大統領とトランプ前大統領の発言に関して、「大抵のことは不正確である」と回答した者は、トランプ氏がバイデン氏を10ポイント上回った。信頼度において、バイデン大統領はトランプ前大統領に対して優位に立っている。

 では、12人の内、1人以上の陪審員が反対して評決が不能になった場合、トランプ前大統領は米国民に対してどのようなメッセージを発信するだろうか。

 トランプ前大統領は「無罪」を強調することは間違いない。裁判は偽りで、魔女狩りであったことが証明されたと語気を強めるだろう。「バイデンの選挙介入は敗れ、われわれが勝利した」と、勝利宣言を行うかもしれない。そして、トランプ支持者の士気は益々高まり、トランプ陣営は勢いづく可能性が高い。

 仮にそうなれば、バイデン大統領は早急に対策を講じる必要が出てくる。米紙ワシントン・ポスト(電子版 24年5月20日)が指摘するように、落胆する民主党支持者と無党派層の士気を高めることが極めて重要だ。「司法システムはトランプを阻止できなかった。しかし、有権者の皆さんはできる。投票で阻止できる。すべては皆さん次第だ」というメッセージが不可欠になる。

 評決不能になった場合、バイデン大統領は、その現実に不満や怒りを抱く民主党支持者、無党派層および女性、特に鍵を握る郊外に住む女性を投票所に向かわせることができれば、評決はバイデン陣営にプラスに働くだろう。

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