経済の常識 VS 政策の非常識

2014年1月2日

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原田 泰 (はらだ・ゆたか)

名古屋商科大学ビジネススクール教授

1974年東京大学農学部卒業、博士(経済学)。経済企画庁、大和総研チーフエコノミスト、早稲田大学特任教授などを経て、2015年から日本銀行政策委員会審議委員を5年間務めた。20年4月より現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮選書)など著書多数。
 

 残りの4割の農業についても、現在すでにかなり高い比率で所得補償を得ていることは、将来関税がゼロになった時に必要となる生産性上昇率が低くても良いということになる。その理由は以下の通りである。日本が食糧自給率維持のために守らなければならない農家は10ヘクタール以上の農家であるとしよう。その農家はすでに3割程度の所得補償を得ている。残りの7割は市場での販売価格が海外との競争によって3割下がったとしても、3割の所得補償は変わらないのだから、農家の受け取る収入は21%(7割×3割)しか減らない。

 しかも、作物ごとに見るとこの効果はさらに大きい。小麦の場合、その出荷額に対して補助金収入が75~80%にも及ぶという(浅川芳裕『TPPで日本は世界一の農業大国になる』54頁、KKベストセラーズ、2012年)。すると、25%の販売価格が3割下がっても、残りの75%の補助金は変わらないので農家の収入は、7.5%しか減らない。すでに補助金がばら撒かれているので、販売価格が下がっても、農家の受け取る金額はわずかに減るだけで、死活問題にはなりにくい。すなわち、補助金を配っていたのは、それほど悪いことではなかったのである。

 それでも、お金を配るのではなくて、生産性の上昇にこそお金を使うべきだと言う人は多いかもしれない。しかし、どうすればそうできるのだろうか。

「生産性上昇策」
の方が無駄

 政府の成長戦略の農業政策では、農地の集約が大事で、そのために農地中間管理機構を設置して、土地を大規模化していくとしている。そのために農林水産省は14年度で1000億円以上の予算を要求している。

 しかし、規模を拡大したい農家は、自分の土地の周りで土地を求めている。もちろん、広い土地を安く売ってくれれば、そこに引っ越しをして大規模農業をしたい人もいるかもしれない。しかし、農地中間管理機構はそんなことはしてくれないようだ。ところが、自分の村のことなら、村に住んでいる人が一番知っている。もう歳をとって耕せないから、機械が壊れてしまったから農地を貸したいという人がどこにいるのか、一番知っているのはその村で農業を拡大したい人だ。農地中間管理機構は、そんなことを知らない。

 これまでも、農地保有合理化事業という、似たようなものはあったが、毎年の農地の売買が8000ヘクタール、貸借が14000ヘクタール程度だった(農林水産省「農地保有合理化事業」「事業の実績」による)。全国農業会議所によると、水田の売買代金は130万円(10アール当たり)、水田の賃借料は1.2万円(10アール当たり、年)程度である。

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