日本にとってのインド
だから、今回の選挙結果は、日本とインドの今後の協力に影響をおよぼし、インドの決断はより時間を要するようになるだろう。日本は、その遅さに辟易することになる可能性があり、忍耐を求められる。
その際に重要なのは、日本にとってインドは必要であることを忘れないことである。今、日本は中国の脅威に直面している。そして中国の領土拡大には特徴がある。それはミリタリーバランスを維持していないと、領土拡大してくる、という特徴だ。
例えば南シナ海を見れば、1950年代にフランスが撤退した直後、中国は西沙諸島の半分を占領した。70年代に米国がベトナムから撤退した後に、中国は西沙諸島の残り半分を占領した。80年代にソ連軍がベトナム駐留兵力を減少させた後に、中国は南沙諸島に進出し、6カ所占領した。
そして90年代に米国軍がフィリピンから撤退した後に、中国はミスチーフ礁を占領した。ミリタリーバランスを維持し、力の空白を生じないようにしなければ、中国は進出してくる。
ところが、中国とのミリタリーバランスを維持することはますます難しくなっている。例えば、2013年~22年までに、中国海軍は148隻もの艦艇を建造・配備した。これは海上自衛隊の総保有数に匹敵する。しかも、英国のチャーチル元首相が指摘しているように、軍拡は4年プロセスだ。「第1年は無生産、第2年はごく少量、第3年は多量、そして第4年は洪水」(W.S.チャーチル、佐藤亮一訳『第二次世界大戦1』河出書房、234ページ)。つまり、中国は、今後、もっと大量に生産してくるかもしれないのだ。
だからこそ、インドとの協力が必要なのである。もし日本とインドが協力していれば、中国は日本向けとインド向けの両方に軍事費を分けなければならなくなる。それは、日本やインドにとっては、ミリタリーバランスを維持しやすくなることにつながる。中国の脅威が増せば増すほど、日印協力の重要性、日米豪印クアッド(QUAD)やインド太平洋の協力の重要性は、高まるのである。
だから、インドの選挙を受けて、インドの動きが遅くなったとしても、または、インドの民主主義プロセスに若干問題を見つけたとしても、「日本にとってインドは必要だ」ということを忘れず、長期的な関係を築いていくことが必要なのである。