2024年11月22日(金)

インドから見た世界のリアル

2024年6月6日

 さらに、2つの世界情勢は、この動きを後押しした。それは、ロシアのウクライナ侵略と、バイデン政権のイデオロギー重視路線だ。

 ロシアのウクライナ侵略の際、インドはロシアとのつながりを断とうとしなかった。だから、西側各国では、「インドは味方じゃない」といった雰囲気になった。そうすると、今まで「味方だからいいか」と黙っていた人たちが、インドの悪いところを積極的に指摘するようになったものと思われる。

 また、バイデン政権のイデオロギー路線も影響している。バイデン政権は、民主主義サミットを開くなど、中国対策でイデオロギーを前面に出し始めている。結果、民主主義であるかどうか、厳しく言われるようになった。

 例えば、ブータンは、民主主義国になろうと努力していたにもかからず、第1回民主主義サミットには呼ばれなかった。対中国戦略の要になるはずのベトナムも、当然、呼ばれなかった。こういう雰囲気であるから、今年選挙があったインドネシアも、民主主義なのかどうか、問われているし、インドについても、民主主義なのかどうか、厳しく審査される事態になったものと思われる。

連立政権で何が起きるか

 問題は今後だ。もし仮にモディ政権が継続する場合、連立政権になる。それがどのような事態を起こすだろうか。

 最も大きな影響は、インドの決断の速度だろう。以前も「2024年も世界を見るためインドの動きに注目か」で指摘したところであるが、インドと米国の防衛協力の協定は、モディ政権の実行力を示すいい例だ。

 米国は、インドとの防衛協力を進めるため、補給や通信に関する3つの協定を推し進めた。これは、日米間でいえば物品役務相互提供協定(ACSA)のような協定にあたり、インドと米国の両軍が共同行動、演習などをすることを促進する協定だった。交渉そのものは2000年代初めにスタートしたのだが、なかなか進まなかった。

 その一因は、当時のインドの政権が連立政権で、その連立の中に、米国との防衛協力に反対する政党が含まれていたことだ。結果、交渉には15年もかかり、モディ政権になってから3つとも成立したのである。

 今、モディ政権が連立政権になれば、同じことが起きるかもしれない。連立相手になりそうな政党は、インドのビハール州やアンドラ・プラデシュ州の地方政党だ。これらの政党は、日本や米国などとの防衛協力には関心がないかもしれないが、地方の利益をとるために、駆け引きを挑んでくるかもしれない。その際は、「連立を抜ける」と脅しをかける可能性はあり得ることである。

 例えば、今、米国海軍の艦艇は、インド国内でも、修理するようになっている。ところが、それに地方政党が口を出して、その地方政党がある州の港で修理して、お金や仕事を持ってくるよう要求するかもしれない。もし要求が通らなければ、米印間の防衛協力の協定に反対して、連立を離脱すると、脅しをかけるかもしれない。つまり、今後、モディ政権下で起き得ることは、日米がインドと防衛協力を進める際も、ビハール州やアンドラ・プラデシュ州の利益に配慮したものでなければならないことになる。


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