モディへの“強権批判”の背景
ただ、それらの要素だけでなく、「モディ政権が強権的ではないか」という批判が相次いだのは事実だ。特に選挙直前に野党の指導者が汚職で逮捕されたりして、米国のバイデン大統領までが、インドの民主主義に口を出す事態になっていた。イスラム教徒の商店がヒンドゥー教徒の過激派に襲われ、店を壊されたなどの指摘も出て、「モディ首相がヒンドゥー教徒重視の政策を掲げた宗教差別の結果だ」という批判につながった。
ただ、インドの過去をみてみると、必ずしも、これらの事例は、新しいものではない。そもそも、今、野党になっている国民会議派は、歴代党首がガンジー家の世襲で、「ガンジー王朝」と呼ばれて、インドの歴史のほとんどで政権与党だった。その汚職がひどいことが一因で、10年前、モディ首相の与党BJPに敗れた経緯がある。
また、「イスラム教徒の商店が襲われた」との指摘も、新しくない。インドでは過去、高いカーストの人々の集団が、低いカーストが経営する商店を壊した事例は少なくない。
国民会議派が与党だった時のインディラ・ガンジー首相がシーク教徒のボディガードに殺害された時も、全土でヒンドゥー教徒が数千人のシーク教徒を殺害して報復したが、34年後の2018年まで逮捕者はでていない。世界中にあるチャイナ・タウンがインドにはないのも、1962年の印中戦争に敗れたインド人たちが、中国人を嫌い、弾圧してきたからだ。
インドのような大陸では、誰でも土地の支配者になれる。ヒンドゥー教徒が弱くなれば、イスラム教徒や、他の民族が支配者になるかもしれない。その恐怖が強いために、ヒンドゥー教徒の支配が脅かされると、ヒンドゥー教徒たちから強い反応が返ってくる。「ここはヒンドゥー教徒の土地だ。慈悲で他の民族を住まわせてやっている。もし逆らうなら、どっちが支配者か、教えてやる」といった雰囲気がある。
その点で、与党がBJPであろうと、国民会議派であろうと、関係ない。そもそも、インドでなかったとしても、これは大陸ではよくあることだ。
なぜ今、問題になったのか
もしインドが過去と同じことをやっているのならば、なぜ今、問題視されるようになったのだろうか。評価基準が過去に比べて厳しくなったことが原因と思われる。大きく3つ理由がある。
まず、インドの大国化だ。インドはあと数年で、日本とドイツを抜き、世界第3位の国内総生産(GDP)を有する経済大国になる。1位が米国で、2位は中国だ。国防費では、すでに米国、中国に次ぐ、世界第3位の軍事大国である。
そして、モディ首相は、「グローバルサウスの代表」をかかげ、世界にインドを大国としてアピールしている。そうなると、周りの評価基準は変わる。
昔なら、発展途上国にしては、選挙で政権交代し、クーデターも起きない国は珍しく、インドは素晴らしい民主主義国として知られてきていた。しかし、もし大国として世界をリードする国ならば、より高いレベルが求められる。
数多くの問題を抱えるインドは、突っ込みどころ満載の国だ。それで、数多くの問題を指摘されるようになった側面がある。