抑うつ傾向になることは、心の弱みの表れのひとつです。医師が治療して快方に向かわせるのは、マイナスをゼロに近づけているだけ。良くなってもゼロです。機械であればそれでいいのですが、人間は向上しなければいけないし、再びゼロからマイナスへと戻ってしまうこともあります。人間は弱みの裏に強みがあるのです。現在は、弱さが出てマイナスになっていても、プラスへと転じることが可能です。
これまでコンサルティングで関わった企業には抑うつ状態の人が何人もいましたが、職場を改善することでプラスへと転じさせることができました。治療的な発想ではなく弱みと強みの裏腹の関係を見つめ、強みを伸ばす行動をとることが重要なのです。私はこれを「心の科学」と呼んでいます。
心配性の遺伝子をもつ日本民族
―― うつ病が重症化する前の段階では予防として有効であると思います。具体的な取り組み方、うつ病が蔓延する要因についての見方を教えてください。
匠:私が行うのは、カウンセリングではなくコンサルティングです。弱みを改善するのではなく、強みをどのように引き伸ばしていくか方向性を提案し、弱みから強みが優位な状況をつくることです。
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日本人の多くは不安・心配性の遺伝子をもっているといわれます。神経伝達物質であるセロトニンのレセプター(受容体)の数が少なく、欧米人の半分程度しかない。日本人は、セロトニンの吸収率が悪いS型の人が多く、欧米人は吸収率の高いL型が多い。S型は心配性でストレスに弱く、L型はその逆です。農耕民族と狩猟民族の違いと見ることもできるでしょう。
日本人はS型が80%、中国人は75%、アメリカ人は40%。最も少ないのは南アフリカの原住民で28%という調査結果があります。日本人は心配性が遺伝子に組み込まれているので、ストレスに弱く、うつ症状に陥りやすい民族性があるといえます。