それを弱いと見ているだけでは何も変わりませんが、むしろ心配性が強みになっている面もあるのです。トヨタ自動車の品質向上策である「カイゼン」は、弱みを改善していく努力の積み重ねです。生産体制のどこかに“穴”があることを心配することで始まった取り組みです。日本人だからこそ発想できたのであり、日本メーカーの強さがここにあります。弱みを強みに変えた姿です。
職場ではストレスチェックなどメンタルヘルスを実施し、不調者がいれば医師やカウンセリングなどを通した治療を始めさせます。ビジネス心理の発想は違います。うつ症状に陥った人の組織の関連として、仕事の中身で強みを発揮できることを探します。これはコンサルティングの発想で、認知的なリソースを探すのです。
それは組織、リーダー、チーム、目標のあり方など、仕掛けを変える、仕事のやり方を変えるだけで強さが出てくる。ここに手を入れないと、うつ症状が良くなり現場に戻ってきても同じことを繰り返すことになります。
たとえば、どんな会社にも「目標」はあります。ただそれを、経営者が設定した「ノルマ」と捉えるか、自分の強みをいかして達成する「目標」というシンボリックなものとして捉えるかによって、自身のモチベーションはまったく変わってきます。うつ症状に陥りやすい人は、「ノルマ」をプレッシャーに感じてしまいがちです。そうではなく、「自分だからこそ達成できる目標」に向かってどう頑張るか、その動機付けや発想の転換を促すのが、コンサルティングの考え方です。
うつになった人は、周りは自分でコントロールできないものと諦めています。変革することが感覚としてあり得ないと決めてしまいます。そうではなく、変えていける感覚を取り戻すこと自己効力感をもてるようにしていくことです。ただし、日常生活には問題ないレベルの抑うつ状態の人までで、一定のレベルを越えた人は、治療して復帰する段階で取り入れて行けば効果がでてきます。
正当化する「自分を信じるな」
―― 10人のチームのうち1人がメンタル的な不調を起こしてしまうと9人にとっては迷惑であり、できれば切り離した方が面倒なく済む、という話を聞きます。その考え方の職場でも効果がある改善ができるのでしょうか。また、うつの原因が職場ではなく家庭にある場合は、職場の改善に意味があるのかも疑問です。
匠:1人の不調者が出たことを他人事で済ましていれば、次の不調者が出る原因になります。職場外の問題で不調になったとしても、強み志向で行動変革する力を付けて行けば、マイナス面を補っていけるでしょう。チーム全体で現状を変えていく方向に持っていくことが一時的には大変でも長期的には組織を強くします。