人は、一人では生きてはいけないのが普通だ。孤独を好む人も日々の生活では、人との関わりを避けられない。どのような環境で生き、仕事をするかは、メンタルに大きな影響を与える。自分にとって適切な環境を選べばいいのだが、それを多くの要因が阻んでくる。市町村によりバラつきがある自殺率に着目し、高い地域と希少地域の違いを研究する和歌山医大の岡檀講師に、分析内容などを聞いた。そこには、うつ病を予防するヒントが含まれている。
岡檀(おか・まゆみ)
慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科博士課程修了。「日本の自殺希少地域における自殺予防因子の研究」で博士号を取得。フィールド調査やデータ解析を重ねた研究成果は、学会やマスコミの注目を集める。第一回日本社会精神医学会優秀論文賞受賞。著書に『生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由がある』(講談社)。2012年から現職。
病気、経済問題が自殺理由の7割
――厚労省の自殺統計をみると、明治時代は年間5000人台だったのが昭和になると1万5000人台へと増え、その後から戦争中は減少傾向となっています。戦争は自殺者数を激減させるのは米国の統計からも明らかですが、この論点は横道に入ってしまいますので割愛します。問題は戦後です。高度経済成長により日本経済が活況となった1954年から60年には2万人台に突入し、オイルショックの83年から87年にかけ2万3000人台へと跳ね上がりました。
3万人台は98年から2011年まで。昨年はようやく2万人台へと減少し、今年も昨年と同じ推移で3万人は割ると思われます。それでも2万8000人が自ら死を選ぶ状況は改善しなければいけません。
まず、お聞きしたいのは14年間も続いた自殺者数が減少してきた理由をどのように見ていますか。
岡:識者の方のご意見に私の感覚的な見方を加えた形でしか申し上げられませんが、その前提で言えば、やはり自殺予防に取り組んだ各種の施策の効果が出ていると思います。内閣府が「地域自殺対策緊急強化基金」として地域向けに100億円の予算をつけたこと、NPOの方々の努力、ゲートキーパーの養成などが大きいでしょう。
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