ビル・クリントン政権期に副大統領を務めたアル・ゴアは、クリントンの大きな信頼を得て複数の政策分野で重要な役割を果たした。とりわけ、環境問題、行政改革、情報テクノロジーなどの分野で政策過程を主導する役割を担ったのである。
副大統領時代のバイデンの働きは?
W・ブッシュ政権の副大統領を務めたチェイニーは、歴代の副大統領の中で最も大きな役割を果たした人物である。ニクソンとフォードの政権下で7年間政権チームに入り(フォード政権には首席補佐官も務めた)、下院議員を10年間務めて少数党院内幹事にまで上り詰め、H・W・ブッシュ政権下で4年間国防長官を務めて湾岸戦争で大きな役割を果たした。
W・ブッシュ政権発足前は国際的な石油会社であるハリバートンの最高経営責任者(CEO)を務めるなどしていたが、W・ブッシュに乞われて副大統領に就任した。チェイニーは圧倒的な人脈と事務能力の高さで大統領の絶大な信頼を得て、ブッシュ大統領の政策決定に大きな影響力を及ぼし、時に「影の大統領」と称されることもあった。2001年の911テロ事件以後は国内の監視プログラムの策定やテロの容疑者への調査などで大きな役割を果たすとともに、サダム・フセインとアルカイダ、大量破壊兵器の関係を指摘してイラク侵攻を導いたともいわれている。
オバマ政権で副大統領を務めたバイデンは、チェイニーがあまりにも大きな役割を果たしたことに批判的だった。バイデンは1970年代から連邦議会議員を務め、上院の外交委員長や司法委員長を歴任した重鎮であり、連邦政界での経験に乏しいオバマにとっては頼りになる存在だった。バイデンは、政権におけるすべての重要な会議に参加することを副大統領就任の条件として提示したとされるが、それは政権に大きな影響力を行使するためではなく、政権が好ましくない方向に流されないようにするためだったと言われている。
一般に、政権チーム内で同じメンバーが日常的に接していると、互いに偏見を共有するようになって、本来ならば慎重に検討する必要があるような重要な事柄について十分に検討せずに決定してしまう危険性があるとされる。そのような集団浅慮を防ぐため、バイデンは長年の経験を活かして数々の議題であえて異論を提示し、政権が安易な決定をしないように意を砕いたとされる。
また、オバマ大統領はビジョンを提示して国民に語り掛けることは得意としていたが、連邦議会議員への説得交渉を嫌っていたため、バイデンがその役割を積極的に担い、オバマのみならず、共和党の上院院内総務を務めていたミッチ・マコーネルなどとも信頼関係を築いたとされる。
トランプ政権の副大統領となったペンスは、連邦下院議員を12年間務めた後にインディアナ州知事を務めた人物だった。政治経験のないトランプを支えるとともに、しばしば暴走するトランプの後ろで、政権を安定的に運営するのに意を砕いたとされている。
ペンスはトランプへの忠誠を尽くして信頼を得たとされるが、トランプが20年大統領選挙での敗北を認めなかったころから距離が生じ、21年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件をきっかけとして両者の関係は決裂したとされる。
バイデン政権で副大統領を務めたハリスは、検事としての経歴を持ち、カリフォルニア州選出の上院議員としての経歴を持つが、初の女性で、初の非白人の副大統領という象徴的な役割を担った人物である。バイデン大統領はハリスに、移民問題や、投票権問題、ブロードバンドへのアクセス拡大など、いくつかの分野で役割を担うよう指示したが、マネージメント能力の不足などが指摘され、必ずしもめぼしい成果を上げていない。
米国の歴史を振り返ると、副大統領経験者が大統領になるのは、実は容易でない。歴史上、副大統領経験を持つ大統領はバイデンを含めて15人だが、そのうち9人は先ほど紹介したように大統領の死亡や辞任などを受けて昇格した人物である。
第二次世界大戦後、自力で大統領選に勝利した副大統領経験者はニクソンとH・W・ブッシュとバイデンだけで、副大統領任期中に勝利したのはブッシュだけである。今年の大統領選挙が、米国の副大統領をめぐり新しい歴史を刻むことになるのか、注目したい。