確かに、シティグループではM&Aのやり手だったサンディ・ワイルが去った後、これといった経営トップに恵まれず経営が行き詰まった。実質的な独裁を長年続けたモーリス・グリーンバーグが去った後のAIGしかり、ウォール街では珍しいアフリカ系アメリカ人トップのスタンレー・オニールが身を引いた後のメリルリンチなど、さまざまな例が思い浮かぶ。数百億円にのぼる報酬が世論の批判を浴びた、破綻したリーマン・ブラザーズの元CEOのリチャード・ファルドもワンマン経営で、後継者を育てられなかった。
世界の金融マーケットをかつては席巻したアメリカの金融機関とその経営トップの没落は、金融業界だけの問題にとどまらず、世界的に景気が後退するなか、他の一般企業でも経営トップの実力と信頼性が問われつつある。あまりの世界経済や経営環境の変化を前に、次世代へ経営のバトンタッチを考え始めた経営者も多いはずだ。
アメリカ経済界、トップ交代の予感
ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフリー・イメルトCEOが、カリスマ的な経営者ジャック・ウェルチの跡を継いだのが2001年9月。IBMのサミュエル・パルミサーノCEOは02年3月に、名経営者のルイス・ガースナーの後釜に座った。両者ともすでに経営トップとしての在任期間がそれぞれ7年を超えた。
金融部門の比重が大きなGEは金融危機で打撃を受けたほか、成長を続けてきたIBMの収益にも停滞色が出てきた。アメリカを代表する大企業でさえ、トップの去就が話題を集める局面がくる可能性もあながち否定できない。
アメリカの株式相場は1980年代以降、87年のブラックマンデーや00年のITバブル崩壊などをこなしながら、ほぼ一貫して上がってきた。株主の監視の目が厳しいアメリカでは株価が長期低迷すると、取締役会からの圧力が高まり企業のCEOは首をきられる。アメリカの産業界は四半世紀に渡る株高を謳歌するなか、よほどの失敗がない限り長期に経営者がCEOの座にとどまる例が目立ってきていた。そうした長期政権も、100年に一度の危機のおかげで危うくなりつつある。
アメリカの経済界での世代交代の予感のようなものから、本書を手にとる読者も多いかも知れない。ウォールストリート・ジャーナルが3月下旬にまとめた週間ベストセラーリストのビジネス書部門で本書は4位に顔を出した。
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