無意識にパフォーマンスが6割も低下する「社会的手抜き」
「ビブラタネの拍手実験」というものがあります。アメリカの心理学者ビブ・ラタネさんが行った実験です。
ビブさんは、大学生の被験者に「全力で拍手をしてください」と依頼し、その被験者が1人でいる時と、2人~6人の集団の一員である時において、「全力」の程度がどれくらい変わるかを計測しました。厳密には、被験者は常に1人でいるのですが、目隠しとヘッドホンをした上で「今あなたの周りには〇名の人がいます」と伝え、「自分は〇人の中の1人だ」と被験者に思い込ませて1人で拍手をさせたのです。そうして、その拍手の音の大きさを測りました。
すると、被験者が「自分は○人の中の1人だ」と思っているその○の数が増えるごとに拍手の音は弱まり、「6人の中の1人だ」と思っている時には、最初の4割ほどにまで音が小さくなってしまったのです。自分1人だけでやっている時に出せる力を100%とすると、同じことをする仲間の数に反比例して個人の力は減り、6人では半分にも満たない力しか出なくなってしまいました。
なお同様の実験にリンゲルマンさんが行った「リンゲルマンの綱引き実験」というものもあり、綱引きで発揮される一人一人の力も、チームの人数が増えるごとに低下してしまうことがわかっています。
ポイントは、「本人は毎回100%の力でやっているつもりなのに、『自分は集団の中にいる』と感じると無意識のうちに手抜きをしてしまう」という点です。その人の「本気の全力」が、「集団に属している」という環境があるだけで(環境がなくとも本人がそう思い込んでいるだけで)、例えば6人で同じことをすると4割のパフォーマンスにまで低下してしまうのです。
ということは……、例えばおそ松くんの親御さんが息子に「草むしりをしなさい」と一斉に命令すると、6つ子なのに実質2.4つ子分の仕事量しかこなせないということになりそうです。あるいは黒澤映画随一の名作「七人の侍」でも、村のために尽くした7人は共同で作業をしたせいで「実質三人弱の侍」程度の働きしかしていなかった可能性があります(可能性ね)。七福神も実質三福神くらいしか福を呼ぶ効果がないのかも……(涙)。
このように、「集団の中にいると無意識に自分の力をセーブしてしまう現象」を、社会的手抜きと呼びます。
【後編】へ続く