2024年4月25日(木)

社食に企業の想いあり

2014年1月10日

 中野に移転したことで結果的に良かったことは、「生活の場」が身近にあることだともいう。丸の内や新宿では、働く人や買い物客の姿は見えても、そこで暮らす人の姿は見つけにくい。中野はオフィス街や大学キャンパス、イベントホールもありながら、地元の人が親しむ商店街があり、公園や住宅街も近い。日常の中に入り込む「飲料」事業を行う同社にとっては、生活が見える中野という場所は消費者との接点が多い場所だった。

 そのため、地域にまつわる取り組みも考えている。中野にある明治大学、帝京平成大学で行うビールや食文化、飲料ビジネスに関する公開セミナー。教育委員会と連携し、中野区にある小学校に子どもたちが憧れるスポーツ選手を招待し、夢を持つこと、人を大切にすることなどを体感してもらう「夢教室」を開く。また、中野区にある「東京飲料」と組み、ウィスキーをジンジャーの入った炭酸飲料で割る「ナカボール」の展開。移転から6カ月足らずだが、すでにさまざまな案が企画されている。

若者の「会社離れ」「飲み会離れ」は本当?
社員それぞれのネットワークを活かして

 社食の取材をしていると、しばしば「最近の若い社員は飲み会に付き合ってくれない」という話を聞くことがある。酒類を扱う企業としては、「若者の飲み会離れ」とも言われるこの状況をどのように考えているのか、少し気になった。井上さんは「お酒は人と人とを不思議に結びつけてくれるもの」と言いながら、こう話してくれた。

 「昔と今とでは、会社と社員の距離感が違う。昔は結婚式で会社の上司が仲人をして当たり前だったけれど、今はそうではありませんよね。プライベートと会社の間に距離ができていて、会社の飲み会より自分のプライベートを優先する若い社員もいる。でも若者が会社を嫌いになったのかといえばそういうことではない。今の若い人たちは会社を客観的に見て、自分たちのすべきことを主体的に決めている。ネットワークも会社の外にたくさん持っている。会社としては、それでいいんです。私たちの企業では、お酒という文化を持っている。若い人たちには嗜みとマナーを持って、お酒の文化を自分のネットワークで発揮してくれればいいと思います。そして、ネットワークで培ったものを会社に還元してくれればいい」

 社員たちが自らつくっていくネットワークの場。その潤滑油としてお酒があり、飲食をともにする場がある。社員が育っていく場として、言ってみれば中野の街全体がキリングループの「社食」なのかもしれない。


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