韓国・中国による大型受注は、世界の造船業界の動向を反映している。50年代に日本が世界一の造船国となったが、90年代後半に韓国、2000年代に入って中国の建造量が増え始めた。
その結果、世界の新造船竣工量のシェアで、日本は韓国と中国に抜かれ、2023年には15.3%まで落ち込んだ。日本が受注競争で韓国・中国に競り負けている背景には、こうした造船能力の差があると考えられる。
さらに、韓国、中国とも中東諸国のLNG増産計画の動きに反応して、自国のLNG運搬船の生産能力や技術力をカタールやUAE側に積極的にアピールし、造船契約受注の道筋を作ったと言える。
他方、カタールやUAEが韓国・中国企業と造船契約を結んだ背景には、両国を自国のLNG産業に中長期的に関与させる狙いがある。特に、カタールは両国それぞれにLNG運搬船の発注を通じて経済的利益を作り出すことで、その見返りとして、大口のLNG購入国である韓国・中国での市場シェアの維持、拡大を図っている。
注目の次世代エネルギー運搬船受注の行方
今後の注目点は、次世代エネルギー運搬船の受注の行方である。中東諸国はLNG運搬船に続き、低炭素エネルギー運搬船の確保にも努めている。
24年7月、ADNOC子会社のADNOCロジスティクス・サービス社は、中国企業「万華化工」との合弁会社「AWシッピング」を通じて、中国企業「江南造船」と総額約19億ドルの造船契約を結んだ。同契約では、江南造船がADNOC向けに、最大船型(積載可能量9.3万m3)のエタン運搬船9隻、最大船型(9.3万m3)のアンモニア運搬船2~4隻を建造する計画である。
ADNOCはLNG運搬船を韓国企業に発注した一方、低炭素エネルギー輸送船では、中国企業を選んだ。UAEが韓国と中国の双方に造船契約先を振り分ける動きは、カタールのLNG運搬船の調達でも見られた。
UAE、カタールとも重要な資源輸出先の韓国・中国との関係を拡大させようとしている。24年5月にUAEのムハンマド大統領が韓国と中国をそれぞれ国賓訪問したことは、その意志の表れである。
ただ、現在アブダビに滞在する筆者が現地で聞き取り調査を行ったところ、ADNOCから日本企業にも建造の検討要請があったことを確認した。最終的に中国企業が受注したものの、技術的に発展途上にある次世代エネルギー運搬船の建造を日本企業が手掛け、受注件数を拡大できるチャンスは今後十分にある。
特に、クリーンエネルギーとして注目される水素の輸送技術は現時点で、日本が韓国・中国を上回る。世界で初めて液化水素運搬船を開発・建造したのは、日本の川崎重工業である。同社の水素運搬船「すいそふろんてぃあ」は22年2月、日本と豪州との間で世界初の海上輸送に成功した。