中東諸国がLNGプロジェクトを推し進める背景には、脱炭素の流れの中でも天然ガス需要の拡大が見込めることがある。欧州諸国は15年の第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で「パリ協定」の採択など、脱炭素政策を主導してきたが、22年のウクライナ戦争発生を機に、脱ロシア産化石燃料というエネルギー面の課題に直面した。
このため22年のCOP27では、二酸化炭素の排出係数が相対的に低い天然ガスを、「低排出エネルギー」として活用していくことが容認された。以後、天然ガスは石油や石炭と異なり、再生可能エネルギー源へ移行する期間における「橋渡し燃料」の役割を担う。脱炭素に向かう中でも、天然ガスの輸出は中東諸国にとって重要な財政収入源となるだろう。
存在感を増す韓国・中国の新造LNG運搬船
LNG事業の拡大につれて、LNG運搬船の需要も増加傾向にある。日本造船工業会の造船関連資料によれば、LNG運搬船の隻数は07~23年の期間、221隻から717隻に増加した。また世界の海上荷動量でも、LNGは07年の1億7100万トンから23年に推定4億1100万トンに推移し、25年には4億5000万トンまで増える見通しである。
中東諸国はLNG増産計画と並行して、新造LNG運搬船の調達も準備している。カタールのカタールエナジー社は20年に中国企業と30億ドル以上の、韓国企業3社と総額192億ドルのスロット契約(造船所で船舶が建造される場所であるドックを予め確保しておく事前契約)を締結した。
その後、同社は在来型LNG船(積載可能量17.4万立法メートル〈m3〉)に関する長期定期傭船契約を11社と締結し、上記スロット契約に基づき、全てのLNG船の建造を韓国企業3社と中国企業1社に発注した。また、24年4月に中国船舶集団(CSSC)と、世界最大級(27.1万m3)のLNG船18隻の造船契約(60億ドル規模)も結んだ。同契約により、CSSC子会社「滬東中華造船」が在来型12隻に加え、最大船型18隻の建造も手掛ける。
続いて、UAEのアブダビ国営石油会社(ADNOC)も24年7月、韓国企業「サムスン重工業」および「ハンファ・オーシャン」と、LNG輸送船8~10隻の建造契約(総額25億ドル)を締結した(表1)。
以上のように、新造LNG運搬船の調達で、韓国企業による契約受注が際立ち、カタールおよびUAE発注の在来型の大部分(最大114隻のうち102隻)が韓国勢によって建造される。一方、最大船型の建造事業では、中国企業が選定された。