ロシアに与えてしまった“準備期間”
第二の問題は、長距離兵器の使用許可が下りる可能性が議論され出して以降、かなりの時間が経過したことで、結果的にロシアがATACMSの標的となる主要な装備・施設や部隊を安全な場所に移転させるなどの対策をとる時間を与えたことだ。
ATACMSは2023年の10月頃には少数の短距離バージョン(射程約170km以下)がウクライナに搬送、使用されていたと見られているが、射程300kmまでのものは本年4月に608億ドルのウクライナ支援予算が米議会で成立したころ以降が基本で、「ロシア領内への攻撃に使用してはならない」との条件が付されていた。
その後今日に至るまで、およそ半年近くにわたり条件解除の可能性がフロートされてきたことは、ロシア軍に対し解除の場合を想定した準備期間を与えることになった。今後ともATACMS供与の意義が大きく削がれることはないのであるが、時がたつにつれロシア側に準備・対応の時間を与え、奇襲的な攻撃により得られる効果は低下することになる。
いずれにせよウクライナは、今後とも自国製のドローンやミサイルでロシア軍関連施設への攻撃を続けるであろう。これら攻撃対象にはクリミア半島の宇宙通信センターや、ロシア南西部のヴォロネジ、アルマヴィール戦略早期警戒レーダー、ムルマンスクの空軍基地など、米国の戦略的利益にも資する攻撃が含まれている。
これにはウクライナとして、自分たちの攻撃はウクライナだけではなく米国の安全保障にも資するのだというメッセージが込められている。