2025年1月2日(木)

モノ語り。

2024年12月30日

 奈良県宇陀市にある「きみごろも本舗 松月堂」。旧宇陀松山城下の松山街道には「うだつの上がる」歴史のある建物が並んでいます。その一つが松月堂です。「きみごろも」というお菓子、一口食べると、それまでに食べたことのない食感で、ほどよい甘さが口の中に広がります。同行した担当編集者は「クリームが入っているの?」と思ったそうです。

(写真・鈴木優太)

 「きみごろも」は、タマゴの白身でメレンゲをつくり、砂糖、ハチミツ、寒天を加えて固めます。それからタマゴの黄身をぬって鉄板で焼き上げます。

 この「フワフワ」はどうしてできるのでしょうか。4代目の堀井隆佑さん(43歳)が教えてくれました。

 「メレンゲをつくるときに、ミキサーを使わずに、40分ほど手でかき混ぜていることがポイントです。あまりにも大変なので、ミキサーで試したこともあるのですが、空気が粗く入ってしまうので、人の手で混ぜた時のようなふんわりとした柔らかさが出なかったのです。『黄身の衣』ですから、タマゴとは逆にするという発想ですね」 

 松月堂は、1902(明治35)年創業です。こんな生菓子を100年以上前に生み出したというのですから驚きです。

 「創業以来、大事にしているのがタマゴの鮮度と、手間を惜しまないということです。タマゴの鮮度がよくないと、メレンゲが水っぽくなってしまい、柔らかくならないのです。保存料も使っていないので、夏場で1日、冬場では2日程度で召し上がっていただければと思います」

 堀井さんのご両親、奥様の5人でお店を切り盛りしていて、手間がかかるからこそ、最大でも1日1000個できるかどうかだそうです。

 「原材料価格が高騰し、苦しい状況が続きますが、3代目の父親の理念は『利益は失っても、信用は失うな』であり、私もこの言葉をいつも気に留めています。テレビ番組やインターネットの普及で、『きみごろも』が全国的に知られるようになりました。地元の方々だけでなく、遠方から買いに来てくださるお客様も少なくありません」


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