2024年11月21日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2024年9月23日

 以前英国に住んだ時の貴重な体験の一つが、公共放送BBCの番組をリアルタイムで視聴できたことである。ニュース報道はもちろん、ドラマ、音楽、コメディ、バラエティにいたるまで、実に幅広い分野で良質な番組を提供していた。 

(VV Shots/gettyimages)

 英国には民放もあり、個性的で面白い番組を放送しているが、やはりBBCにはかなわない。今は日本でも衛星放送などを通じてBBCの番組を視聴することができる。本書『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(小林恭子著、光文社新書)は在英ジャーナリストがBBCの全体像をその歴史とともに紹介・分析した。

第二次世界大戦時には情報統制を経験

 BBCは1922年に発足し、2022年に開局100周年を迎えた。1922年といえば日本ではまだ大正時代である。最初は民間会社からのスタートで、ラジオ放送のみだった。その後公共放送に組織替えされ、1936年にはテレビ放送も始まり、英国の放送界をリードする存在になる。

 本書で記される第二次世界大戦開戦前後のBBCの動きは興味深い。ラジオ放送は大衆への呼びかけという意味で大きな力を持っており、敵国も放送を聞くことができる環境にある中で、英国が属する連合国が勝利するよう政府と協力しながら放送を続けた場面などは、当時のBBCの置かれた複雑な立場を示している。そうした中でも正確な情報を伝え信頼を得てきたという点では、同様に戦時中に統制された日本の放送局の状況とは異なっている。

 開戦後、情報省の管理下に入ったBBCは、政府による「検閲済」のスタンプが押された台本通りの放送が義務化された。出演者が台本から逸脱していないかどうかを決める「スイッチ検閲者」がスタジオに陣取り、場合によってはマイクの音量を調整するか、あるいは進行を止めることができるように調整された。

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