2024年11月24日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2024年9月23日

 戦時中の特殊な環境であるとはいえ、放送局が政府の管理下に置かれていたという点は、英国にもそうした時代があったという意味で印象的である。ドイツとの情報戦の中で放送を届けるだけでなく、敵の情報を傍受する活動にもBBCが関わっていた。

「鉄の女」との闘い

 第二次世界大戦が終わるとBBCを取り巻く風景が大きく変わってくる。本書を読み進めると、戦後はBBCの成長と躍進の時代だったことがわかる。

 ラジオが普及し、1953年のエリザベス女王の戴冠式にあわせてテレビが売れて国民に身近なものになり、民放の放送も始まった。貿易が活発化したことで大量消費の時代を迎え、若者パワーが拡大したこともBBCの成長を促した。音楽番組などにも注力し、ビートルズやローリング・ストーンズなどのロックバンドが世界的なスターに成長していったほか、コメディ番組なども人気を博した。

  しかし組織が大きくなるにつれて難しい問題も生じてくる。放送局員のスト、政権との対立などである。その顕著な例は「鉄の女」と呼ばれたマーガレット・サッチャー首相との対立だった。

 自由市場主義を信奉したサッチャーにとってBBCは、教会、大学、官僚制、国営の国民医療サービス(NHS)などとともに、消費者主権の原則を理解できない過去の遺物だった。サッチャーはBBCの放送受信料を強制的な税金と変わらないと見做し、これによって「肥大化した」BBCは、非効率で自己満足的な公共サービスの最たるものと捉えていた。

 多くの改革を断行したサッチャーにしてみれば、BBCはまさに自らの改革の対象であるという意識が抜けなかったのだろう。さらに1982年に起きたフォークランド紛争の報道ぶりをめぐってサッチャー政権との対立が決定的になっていく様子も描かれる。

 その後もBBCは様々な問題に直面する。組織の官僚化や、ネットの登場、SNSへの対応である。BBCは時代の動きに合わせて巧みに変化を遂げてきたと言えるが、出演者の高額報酬批判や性加害をめぐる不祥事なども相次いで起きており、そのたびにBBCは公共放送としてのあり方を問われている。

王室との関係

 一方、開局以来、英王室と密接な関係を築いてきた点はBBCの特徴であり、本書でも詳しく紹介される。映画「英国王のスピーチ」でも知られるジョージ6世が第二次世界大戦中に行った国民を鼓舞するスピーチや、エリザベス女王の戴冠式、ダイアナ妃とチャールズ皇太子の結婚、そしてダイアナ妃のパリでの非業の死にいたるまで、英国民の前にはBBCが報じる王室メンバーの姿があった。


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