2024年12月13日(金)

田部康喜のTV読本

2022年12月31日

 NHKスペシャル「エリザベス女王~光と影 元側近が語る外交秘話~」(2022年12月25日)は、英国の不文憲法つまり幾多の革命と王朝の交代によって練り上げられた、元首に禁じられている政治的な言動、行動のギリギリのところで平和のために言葉を放った、女王の秘話を綴ったドキュメンタリーである。

(ロイター/アフロ)

 2022年に亡くなった人物のなかで、世紀を超えて歴史に影響を与えた女王に敬意を払うのにふさわしい傑作だった。

 エリザベス女王が父のジョージ6世の後を襲って元首の地位についたのは1952年、25歳のときのことである。吃音症に悩みなながらも、戦間期に国民に繰り返し訴えかけたジョージ6世については、映画「英国王のスピーチ」(2010年)が描くところである。国民の心に響く「言葉の力」を信じたスピーチだった。

 ドイツとの開戦にあたっての国王のスピーチの一部を映画のパンフレットから引用する。

 「この重大なとき おそらく史上最も宿命的な時
  私の言葉をすべての国民に送る
  国内と海外にいる者たちに このメッセージを
  心からの深い思いを込めて それぞれの家の戸口を開けて
  直接話しかけるごとく伝えたい

  多くの者にとって2度目の経験だろう 我々は再び戦時下に
  何度も何度もあきらめずに 平和的な道を見出すべく
  溝を埋める努力が続けられた 我々と相手国との関係について
  彼らは今や我々の敵である 我々の努力は無駄に終わった
  我々は戦うことを余技なくされた
  異なる主義を持つ国家の挑戦を受けたのだ
  もしそれが勝利すれば 世界中のあらゆる文明秩序が危機に瀕する」

 平和の危機におけるエリザベス女王の行動と発言のなかに、父・ジョージ6世の姿を彷彿とさせる。今回のドキュメンタリーでは表現の時間的な余裕がなかった裏面史である。


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