2024年12月21日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年9月30日

 ウクライナがロシア国内の標的に対し長距離兵器を発射できれば、モスクワにとって戦争のコストは高まる。ウクライナがロシアの軍事力を支える弾薬庫、燃料貯蔵施設、訓練基地、物流拠点、製造拠点を攻撃する能力を持つことで、プーチンは侵略戦争を遂行するための物資が不足することになる。

 おそらく最も重要なのは、それがクレムリンを怖がらせることだ。モスクワはウクライナが次にどこを攻撃するか常に心配しなければならない。そして、プーチンは、自身が招いた戦争の惨状に自国民が気づき始めるのではないかと心配しなければならなくなるだろう。

 ウクライナは、西側同盟国がウクライナ防衛のために供与した長距離兵器の使用について同意してくれるのをじりじりしながら待っている。国連憲章は国連加盟国に対する「個別的または集団的自衛の固有の権利」を認めており、法的にはキーウはロシア領内でそれらを使用する完全な権利を有している。

 ワシントンによる許可が遅れれば遅れるほど、より多くの民間人が死亡し、町は壊滅し、ウクライナ軍は消耗するだろう。この不必要な流血を止めるべき時は過ぎつつある。

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プーチンに与えた自信

 8月6日のウクライナ軍によるクルスク州侵攻には様々な狙いが込められていたが、ウクライナが最も重視した成果の一つが、ロシア領土への侵攻という事態になっても核のエスカレーションは起こらないことを、身をもって示し、米国による長距離兵器の使用許可に繋げることであった。

 ところが米側の反応は鈍かった。9月13日の米英首脳会談で何らかの進展が期待されたが、結論は出なかった。少なくともこれまでの経緯は、以下の2点において、今後のウクライナ情勢への対応に否定的な影響を与えかねないものである。

 第一の、かつ最も深刻な問題は、プーチンが「核の脅しは効く」との確信をさらに深めたであろうことである。

 プーチンは戦争開始以来、ことあるごとに核の使用をほのめかしてきたが、本年4月頃に射程300キロメートル(km)に及ぶ精密誘導兵器ATACMSミサイルがウクライナに供与されて以降は、核の脅しが「新鮮味」を失わないように、それまでとはやや異なるナラティブを用いるようになった。直近では、米英首脳会談の前日にあたる9月12日、プーチンはわざわざ記者のインタビューを設定して、長距離兵器の使用を許可することは「北大西洋条約機構(NATO)諸国がウクライナでの戦争に直接関与することと同じ」で、「紛争の性格を劇的に変えるもの」とした上で、「然るべき決断を下す」と述べ、内外に広く広報した。

 以上のプーチンの恫喝発言等は、プーチンが米等による長距離兵器の使用許可を如何に恐れているかの証左でもあるのだが、米国は翌13日の米英首脳会談で結論を出さなかった。これを見たプーチンは、これまでの脅しが効いたものと判断したであろう。このことは今後、更なる脅しを誘発する要因となるだろう。


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