2024年10月4日(金)

BBC News

2024年10月4日

トム・エスピナー、ジョシュ・マクミン、BBCビジネスチーム

左隣の人がひじ掛けを占領している。自分は、歯を食いしばって耐える――。誰にでも経験がある状況だ。時速800キロメートル超で飛ぶ、金属の円筒形に押し込められている最中に。

あるいは、窓側席の人がしょっちゅう立ち上がってトイレに行くとか、前の人がいきなり背もたれを倒してきたので、膝がぎゅっと押されたとか。そういうこともあるだろう。

イギリスでは約半数の世帯が、年に一度は飛行機に乗る。それだけに、機内での振る舞いというのは何かと面倒な頭痛の種だ。

香港のキャセイパシフィック航空では9月、中国本土出身の前列の客が座席の背もたれを倒したことをきっかけに、香港市民の夫婦がこれに反発し、前列の客といさかいを起こす出来事があった。同航空はこの夫婦を搭乗禁止者に登録した。

では一体どうすれば、ほかの乗客から嫌われずに済むのだろう。

席を倒すべきかどうか

長距離路線で前の人が背もたれを倒してきたら、後ろにいる自分はイライラするかもしれない。ただ、イギリス人とアメリカ人とでは、イライラする程度に差があるようだ。

航空運賃比較サイト「スカイスキャナー」による2023年調査では、イギリスでは40%の人が背もたれを倒されるのは不愉快だと感じているという結果が出た。一方で英世論調査会社YouGovの今年初めの調査では、受け入れがたいと答えたアメリカ人は25%にとどまった。

リクライニング・シートは、それを嫌がる人の割合がどうであれ、「本当に問題」なのだと、元客室乗務員のシャーメイン・デイヴィスさんは言う。

怒る乗客同士のいさかいを止めるため、客室乗務員が間に割って入らなくてはならない場合もあるのだという。

米カリフォルニア大学ロザンセルス校のジム・ソルズマン教授は、根本的な問題は航空会社が多くの座席を機内に詰め込むせいで、乗客一人当たりのスペースが、以前よりも狭くなっていることにあると話す。

「問題はそもそも、航空会社が作り出したものだ。それなのに、(航空会社は)窮屈な座席に対する怒りや不満を乗客に転嫁している。乗客たちは航空会社を非難するのではなく、お互いの行動が問題だと客同士で難し合うようになっている」

礼儀作法の専門家で作家のウィリアム・ハンソンさんは、座席を倒すタイミングが重要で、食事中は倒すべきではないと話す。後ろの席の人がテーブルにもたれかかっていないか、あるいはラップトップ・パソコンを使っていないかを確認してから、背もたれをゆっくり倒すべきだという。

倒してもいいか迷ったら、相手に声をかければいい。相手が読心術で、こちらの心を読み取ってくれるなど、期待してはいけないのだと。

ひじ掛け占領

機内のスペースに関する不満として、もう一つよく言われるのが、ひじ掛け問題だ。一人の乗客が、自分の両側のひじ掛けを独占することは実際にある。

アメリカの大手航空会社で客室乗務員として働くメアリさんは、仕事で移動する際には座席が選べない。そういう時はたいてい、「左右のひじ掛けに両腕を乗せた男性2人の間」の席が、与えられるのだという。

スカイスキャナーの2023年調査では、英航空会社を使う乗客の30%近くが、ひじ掛けを占領されることを不快に感じていた。

「ひじとひじで争った」こともあるというメアリさんには、ひじ掛け奪還戦略があるという。

「隣の人が飲み物を受け取ろうと手を伸ばすまで待って、その時が来たらひじ掛けを確保するんです。私の腕を押しのけようとする人もいたけど、そういう人には目線で語りかけました。『今日はそういうことはやらない』のだと」

前出のハンソンさんは、乗客同士の緊張関係を和らげるため、ひじ掛けには腕を丸ごとのせるのではなく、「ひじを置く」だけにして、1本を共有すべきだと話す。

トイレに行く時は

窓側の席に座っていてトイレに行きたくなったものの、隣の人が寝ているので、どうすればいいかわからない。これに困ったことがある人は、大勢いるはずだ。

隣の人を起こす? それとも、その人の上をまたいで行く?

YouGov調査に回答したアメリカ人の半数以上は、トイレに行くためとはいえ、誰かをまたいで乗り越えるのは、容認できない行動だと答えた。

ハンソンさんは普段、通路側の座席を選んでいる。眠る前には隣の人に、必要なら起こしてくれてもいいし、跳び越えてもらっても構わないと伝えるようにしているという。

真ん中か窓際に座っている場合は、通路側の席の人に対して穏やかに、通路に出る必要があると伝えるといい。ただし、自分の話す言葉が通じないこともあるので注意するようにと、ハンソンさんは助言する。

飲酒している乗客は、トイレに行く頻度が増えることもある。

英航空大手ヴァージン・アトランティックの客室乗務員だったゾーイさんは、別の航空会社のスペイン・イビサ島行のフライトに乗った時のことを話してくれた。その便の乗客の多くは、搭乗前に空港のバーで飲酒していた。

離陸後にシートベルト着用のランプが消えるや否や、「みんな立ち上がって」トイレに並び始めたという。何人かは「かなり攻撃的」になり、全員を強制的に座らせるために客室乗務員がシートベルト着用サインを再び点灯させる事態になったのだと、ゾーイさんは言う。

不幸なことに、乗客の1人は我慢できずに「買い物袋に用を足す」はめになった。

「その男性は袋の中に水着の短パンを数枚入れて吸収させようとしていた」

座席を立つ

スカイスキャナーの調査によると、イギリス人の約3割が、飛行機が着陸した途端に席を立つ人たちを不快に思っている。

「とにかく座席に座ったままでいてほしい」と、前出の元客室乗務員デイヴィスさんは言う。「急いで跳び上がっても無意味です。どこにも行けないのだから」。

飛行機の着陸後は通常、乗客が移動できるようになるまでに数分はかかる。空港の地上スタッフが、乗降用のボーディング・ブリッジやタラップを設置するなどの作業が必要だからだ。

加えて、荷物を預けている場合には、「どんなに急いで飛行機を降りても」荷物がベルトコンベアに運ばれて出てくるのを待たなくてはならないと、デイヴィスさんは指摘する。

礼儀作法が専門のハンソンさんは、エチケットの観点から言うと、脚を伸ばすために立ち上がりたいと思うのは悪い事ではないとしている。それに、乗客は無意識のうちに飛行機に乗っているのが実は怖くて、それで降りたいだけなのかもしれない。

そう言いつつも、みんなが一斉に立ち上がって「役立たずみたいに立っている」のは「いささか滑稽(こっけい)」だと、ハンソンさんは付け加えた。

ほかの乗客とうまくやるには?

ほかの乗客が嫌がる行為としては、列に割り込んだり、ヘッドフォンを使わずに電話やそのほかの機器を使用したり、長い髪の毛を背もたれにかけたり、靴や靴下を脱いだりすることが挙げられる。

客室乗務員があなたのそばでスプレーを「シュッ」と吹きかけていたら、靴下をはいたり消臭剤を使った方がいいかもしれない。前出のメアリさんによると、乗務員はあなたに直接、靴下を履いてくださいとは言わないので。

とはいえ、飛行機の利用者は増えているだけに、機内でほかの乗客とうまくやるにはどうすればいいのだろうか。

誰もが思いやりを持つことが、うまくやる鍵だとハンソンさんは言う。

「ほかの人とうまくやるために自分の行動を自重したくない、そういう人は、はっきり言って、自分に何か問題があると思いますよ」

(英語記事 When to recline and how to share armrests: Rules for avoiding a mid-flight row

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c781z92y03jo


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