2024年10月10日(木)

BBC News

2024年10月10日

イギリスで最も裕福な60人が、所得税として年間合計30億ポンド(約5800億円)以上を納めていることが、BBCの調べで分かった。

この60人はそれぞれ、2021/22年度に少なくとも年間5000万ポンド(約97億円)の収入を得ていたが、実際にはそれよりはるかに多くの収入があり、おそらく他にも多額の税金を納めているとみられている。

英シンクタンク「財政研究所(IFS)」は、これらの数字は、税制がいかに少数の個人に依存しているかを示すものだと述べている。イギリスでは、今月発表される秋季予算での増税が超富裕層の国外脱出を促し、財政を悪化させるのではないかという懸念がある。

労働党は総選挙で所得税の変更を否定したが、レイチェル・リーヴス財務相はその他の増税の可能性については否定しなかった。

英財務省の報道官は、政府は「税制における不公平の是正」に積極的に取り組むつもりだと述べた。

個人納税者が支払う所得税の額は、労働党がマニフェストで約束した追加支出の総額のおよそ3分の2に相当する。

スイスの大手銀行UBSは7月、イギリスでは2028年までに富裕層のうち50万人が国外に流出するだろうとの見通しを発表した。その理由の一部として、低税率の国々への移住が挙げられている。

IFSは、財務省は富裕層の一部が国外に流出することで「財源に比較的大きな穴が開く」と認識する必要があると指摘している。

これについて野党・緑の党は、富裕層への課税強化が彼らのイギリス脱出につながるという主張には信憑性(しんぴょうせい)がないと反論した。

秋季予算で増税はあるのか

労働政権の公約実現には、いわゆる「ノン・ドム」税制(イギリス居住だが税務上の居住地は国外にある人は、海外資産が一定期間非課税になる)の廃止が重要な財源のひとつとなっている。ただしBBCは先月、「ノン・ドム」税制を廃止しても、当初の期待よりもはるかに少ない税収しか確保しかできないのではないかという懸念が、財務省内部で生じていると報じた。

当初は、この制度を廃止することで10億ポンドの追加税収が見込めると思われていた。

労働党政権の閣僚らはまた、前保守党政権が財政に220億ポンドの「ブラックホール」を残したと指摘している。

このため、政府内では次期予算における増税の可能性が議論されている。リーヴス財務相は8月、資産売却益に課税されるキャピタルゲイン税への増税を否定しなかった。

増税で富裕層は離れていくのか

IFS上級エコノミストのスチュアート・アダム氏は、富裕層がイギリスを離れるという報道は、現時点では単なる憶測に過ぎないと述べた。

一方で、「納税額が少数の人にことさらに集中している」ため、大規模な人口流出がなくても一握りの人がイギリスを離れるだけで国家財政に問題が生じる可能性があると、アダム氏は警告した。

「リーヴス財務相の検討を要するリスクが、明らかに存在する」、「うわさされている税制改革の一部は、所得分布の上位層にことさらに集中している」と、アダム氏は述べた。

アダム氏はさらに、高額納税者はキャピタルゲインなど所得税以外の多額の税金を支払っている可能性も高いことから、特定の高額納税者がイギリスを離れた場合、歳入として失われる危険のあるのは「所得税の税収に限らないかもしれない」と付け加えた。

緑の党のカーラ・デニヤ共同党首は、超富裕層がイギリスを離れるという脅しは、真に受けるべきではないと警告した。

「2017年にノンドムの地位に変更があった際には、そのようなことは起らなかった」と、デニヤ氏は指摘。

「富裕層がわざわざイギリスに住む理由は、仕事や家族、文化などいろいろある。そして、より幸せで健康的な社会を意味するなら、多少の税負担増を喜んで支払う人も多い」

富裕層60人の所得税額は、歳入税関庁(HMRC)のデータをBBCが情報公開法によって入手したもの。入手可能な中で最も直近の2021/22年度のデータを手に入れた。

イギリスではこの年、約3300万人が所得税を納めた。その税収は総額2250億ポンドだった。

収入が5000万ポンドを超える60人は、イギリスの納税者のわずか0.0002%。その合計の所得税納税額は、所得税収の1.4%に相当した。

HMRCは当初、この数字を公表すれば該当する個人を特定できてしまうとして、情報の公開を差し止めていた。しかし、BBCが重ねて情報公開を求めた結果、当局はデータ公開に同意した。

富裕層がイギリスから離れるのを思いとどまらせる方法として、IFSは「出国税」の導入を提案している。

「(一部の国は)『あなたがイギリスを離れたら、ここにいる間に発生した利益に対して課税する。たとえ資産を後々になるまで売却しなかったとしても』と言っている」と、IFSのアダム氏は説明する。

「それに対してここでは、イギリスに来る前に利益を蓄積した人については、たとえイギリス滞在中にその資産を売却しても、それは課税対象外にする」ことで、イギリスに来やすくするようアダム氏は提案している。

財務省の報道官は、「我々は公共サービス再建の財源を確保するため、税制の不公平性を是正している」と述べた。

「そのために、時代遅れのノン・ドム向け税制を廃止し、優秀な人材と投資のイギリス誘致を重視した、居住者ベースの、国際競争力のある新税制に置き換える」のだと、財務省報道官は説明している。

(英語記事 Amount UK's richest pay in income tax revealed

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/ce8dj66743lo


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