ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は10日、ロンドンの英首相官邸を訪れ、キア・スターマー英首相と会談した。
ウクライナとロシアの戦争が3度目の冬に向かう中、ゼレンスキー氏はあらためて国際社会の支援を取り付けようとしている。
ロンドンのダウニング街では大統領のため赤じゅうたんが用意され、両首脳は官邸の玄関前で握手し、抱擁(ほうよう)した。
官邸内で記者団を前にしたゼレンスキー氏は、今回の会談で戦争の次の段階に関する「勝利計画」の詳細を説明する意向を示した。ゼレンスキー氏は、「イギリスの人たち、この偉大な国の皆さん、戦争の一番最初から皆さんが支えてくれたことに感謝します」と述べた。
スターマー首相は、ウクライナに「引き続き積極的にかかわり支援していく」と約束し、その姿勢を明示することが「とても大事だ」と話した。さらに、この日の首脳会談は、今後に向けたゼレンスキー氏の計画を「検討し、詳しく話し合う」機会だとしたうえで、「これは(ウクライナの)皆さんにとっても、私たちにとっても、実に重要な戦いだ」と強調した。
北大西洋条約機構(NATO)の新事務総長になったマルク・ルッテ氏もこの日、首相官邸を訪れた。ルッテ事務総長は、スターマー氏とゼレンスキー氏の会談に加わった後、スターマー首相と一対一で会談した。
ゼレンスキー大統領はこの後、フランスとイタリアを訪れる予定。
スターマー首相との会談内容は公表されていないが、イギリスが提供しているミサイルをロシア領内に撃ち込む許可を、ゼレンスキー氏はスターマー氏に重ねて求めたものとみられる。
イギリスはウクライナに、長距離巡航ミサイル「ストームシャドウ」を提供している。ゼレンスキー氏はこれをロシア国内の軍事目標に使用する許可を公然と求めてきたが、今のところイギリス政府はこれに応じていない。この使用にはアメリカの許可も必要となる。
ルッテ事務総長は前任者イェンス・ストルテンベルグ氏と同様、ロシア国内の軍事目標をウクライナが攻撃することを支持している。ただし、その判断は究極的には、武器を提供しその運用を支援する各国が決めることだと言明している。
イギリスの主要官庁内には、ストームシャドウをロシア国内攻撃に使うことを支持する声もあるが、政府はイギリス単独での決定には消極姿勢を示してきた。アメリカはまだ認めていないほか、ドイツ政府も反対している。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、西側が提供するミサイルでのロシア国内攻撃は深刻なエスカレーションをみなすと態度を明示している。プーチン氏は9月は、西側のミサイルがロシアを攻撃すれば、「ウクライナでの戦争にNATOの国々、アメリカや欧米諸国が、直接参加したということにほかならない」、「直接の参加だ。もちろんこれは、紛争の本質、性質を大きく変えるものだ」として、「その場合、もたらされる脅威に基づいて、私たちは対応を決める」と述べている。それだけにNATO加盟国の間には、ロシア政府の反撃を懸念する声もある。
今月10~13日にはドイツ・ラムシュタインでウクライナ支援国の高級レベル会合が予定されていたため、ウクライナはここでの事態打開を期待していた。しかし、米フロリダ州に大型ハリケーン「ミルトン」が接近していることから、災害対策を優先したジョー・バイデン大統領の欠席が決まったため、ラムシュタイン会議は延期された。
ロシアはこのところ、小規模ながら戦略的に重要な戦果を挙げているものの、決定的な突破口はウクライナもロシアも開けずにいる。
ゼレンスキー氏は、11月のアメリカ大統領選で共和党のドナルド・トランプ候補が勝利した場合は、アメリカのウクライナ支援は大きく後退する可能性があるとみている。その場合、ウクライナは今まで以上にイギリスなど欧州諸国の支援に依存することになる。
ロシアが2022年2月にウクライナ全面侵攻を開始して以来、イギリス政府はウクライナに計128億ポンド(約2兆5000億円)相当の、軍事およびその他の援助を提供している。ウクライナからイギリスに一時的に避難し在住している人は、20万人以上に上る。
労働党を率いるスターマー氏は今年7月に新首相に就任して以来、ウクライナの戦いを金銭的にも外交的にも強力に支援するという保守党政権の方針を継続している。
スターマー政権発足以来、ゼレンスキー氏がダウニング街を訪れるのは2度目。スターマー政権が最初に自国で迎えた外国首脳が、ゼレンスキー氏だった。
ゼレンスキー氏は今年2月にもウクライナで、当時は最大野党党首だったスターマー氏と会っているほか、7月にワシントンで開かれたNATO首脳会議でも会談している。
7月の首脳会議ではNATO加盟諸国は、ウクライナ加盟の「不可逆的な道筋」への支援を宣言した。ゼレンスキー政権は、ウクライナの安全保障にとってNATO加盟は不可欠だと考えている。