ソニーのコンピューター事業部だったVAIOが別会社として新しくスタートして5年。自分たちが作った製品を、自分たちで販売、収益を黒字化、そして新事業へ投資できるようになったと言います。しかも一時期、撤退していた海外でも17の国で販売するほど好調。完全復活と言ってイイでしょう。しかし、短期にこれだけの復活を遂げた例は余りありません。何が、それを可能にしたのでしょうか?
独立した時、2つのものがなかったVAIO
VAIOがソニーから独立した時、もらったモノが幾つかあります。VAIOという「ブランド」、安曇野「工場」、そして事業部「メンバー」。非常に手厚いと言えば、手厚いのですが、ソニーとは関係ない形で切り離したわけですから、これら3つのモノはソニーに不要というわけです。
私が覚えている限り、当時、VAIOはヒット「商品」もなく、事業的にはかなり危ない状態だったように思います。その上、ソニーの場合、国内販売はソニー・マーケティングが一手に引き受けていしたので、事業部が独立した場合、「営業部」がないことになります。いろいろなモノはもらったものの、目玉「商品」もなく、「完結していない組織」で、船出したわけです。
どうしようもなくなったパソコンメーカーを建て直した一番有名な例はアップルでしょう。倒産寸前の会社を、スティーブ・ジョブスが年俸1ドルで引き受け、奇跡の復活を遂げた様は、ビジネス世界の伝説と化しています。その時のアップルも、ヒット商品がありませんでした。マニア(アップル信者)には受けるものの、新規ユーザーを魅了するパソコンがなかったわけです。
ジョブスはiMacという起死回生のヒット「商品」を出します。スペック的には大したことないのですが、コロンとした三角おむすびにも似たスケルトン筐体は、今までパソコンを使ったことがない、若者、女性層を大いに魅了しました。
メーカーが復活するには、孝行息子と呼ばれる「商品」が必要です。VAIOは、技術、工場、人はあります。ないのが、「営業部隊」と売れる「商品」。VAIOは、どのように対応して行ったのでしょうか?
業務用に方向転換
VAIO設立が2014年。IoTが叫ばれる前の年。十分実用に足るスマートホン、タブレットは、すでに世に出ています。「タフネス」で売り出したパナソニックのレッツ・ノート、もしくはコストパフォーマンスのいい、DELL、hpが、ビジネス・パソコンとして強い時代です。また、民生用はアップルのマッキントッシュが強い頃です。
VAIOはそれまで得意分野としてきた「民生用」から転身、「業務用」へと舵を切ります。業務用パソコンは、景気が悪くなると途端に売りが落ちる民生用と違い、毎年必ず更新されますので、確実に買ってくれるお客がいるのも事実です。参入難易度は高いのですが、業務用の場合、買い手側の感度も高いので、イイ商品を出すことができれば、相手から求めてくれます。当然、営業人員も少なくてすみます。
一番の問題は、買い手が乗り換えてくれる魅力を持った商品を作ることができるのかと言うことです。首都圏の超混み混みの長距離電車通勤にも耐えうるパナソニックのレッツノートを上回る商品が必要なのです。
タブレット時代のパソコンとは何か?
2019年2月、VAIOに取材した際、次の様な質問を投げかけたことがあります。
「今の時代、スマホ、タブレットで、ビジネスレポートを出すことは、余り難しいことではありません。そんな時代のパソコンとは何ですか?」
瞬時に、よどみのない答えが返ってきました。
「パソコンは、クリエイティブな作業の結果を、最も的確に、最も早く出すツールです」
分かりやすくも、衝撃的な答えでした。
私はその時、某社の新型スマートホンだけで仕事ができるのかチェックをしていたのですが、どうしてもパソコンに追いつかないのが、キーボードによる入力と、マウスでの位置合わせ。つまり、スマートホンは「考える」という脳のレスポンスに対し、記録するのが時間的に遅いのです。これが遅いと折角のインスピレーションが消えてしまうときがあります。
一方、スマートホンは、カメラ、マイク、通信付きの上、常時携帯。ですから、パソコンは、情報入手機器として、スマートホンに敵いません。が、大画面で情報を照らし合わせる、考える、まとめるなどの作業は大得意。そこを尖らせたのが、(今後の)パソコンというわけです。
この5年間 VAIO関係者は、寝ても覚めても、この今後のパソコンというコンセプトを自問自答したはずです。私が聞いたのは、その最終形。説得力のある研ぎ澄まされた答えでした。ここまで研ぎ澄まされると、その先の商品の形も自ずから見えて来ます。