2024年10月12日(土)

BBC News

2024年10月12日

マリアナ・スプリング偽情報・ソーシャルメディア担当編集委員

アメリカで相次いで発生したハリケーンに関する偽情報が、インターネット上で氾濫(はんらん)し、さらに、真実よりもエンゲージメント(コンテンツへの関わりを示す指標)を重視するソーシャルメディアによってあおられている。

ハリケーン「ヘリーン」と「ミルトン」に関する偽のうわさの規模と速度は、私がこれまでオンラインで調査した多くの狂乱とは異なっていた。

これまでに拡散された投稿の中には、予報や救助活動の正当性に関する一見無害な疑問から、ドナルド・トランプ前米大統領が繰り返し主張しているような、災害救援予算が不法入国した移民のために使われているという事実と異なる主張まで、さまざまなものがある。

また、人工知能(AI)によって生成された「被災地から逃れる子供」の偽造写真、別のハリケーンの古い映像、コンピューター生成(CGI)の映像など、ハリケーン被害の虚偽画像を拡散する人も大勢いた。さらに、政府が天候を操作している、つまり「ジオ・エンジニアリング」を行っているという、根拠のない陰謀論を共有する者もいた。

加えて共和党のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員(ジョージア州選出)は先週、「X(旧ツイッター)」に、「そう、政府は天候を制御できる」と書き込んだ。

Xの報酬システムとアルゴリズム

拡散された偽情報のほとんどは、Xで青いチェックマークが付いたアカウントが発信していた。青いチェックがついているだけでなく、陰謀論をたびたび拡散してきた実績のあるアカウントだ。ハリケーン「ミルトン」の偽情報を今秋拡散した複数のアカウントは、以前にも、選挙から政治的暴力、新型コロナウイルスのパンデミック、戦争に至るまで、実際に起きた出来事をやらせだとほのめかす投稿を共有していた。

私は、「ヘリーン」と「ミルトン」の両方のハリケーンについて、Xで事実と異なる情報や誤解を招く内容を共有しているアカウント数十件にメッセージを送った。こうしたアカウントは、米実業家イーロン・マスク氏が同プラットフォームの所有者になってから導入された改変のおかげで、情報拡散力を手に入れたと思われる。かつては認証済みで審査済みの人物のアカウントにだけ、青いチェックマークが付与されていた。しかし現在では、ユーザーがチェックマークを購入できるようになっている。

Xのアルゴリズムは、その見返りに、チェックマーク付きユーザーの投稿をより目立つようにする。こうしたユーザーはまた、その内容が真実かどうかに関わらず、投稿を共有することで利益を得ることができる。

Xの収益分配方針により、青いチェックマークのユーザーは、返信に表示される広告から収益の一部を受け取ることができる。しかしXは9日、「支払額が増えている」と発表し、収益は返信に表示される広告ではなく、有料のプレミアム会員になった他のユーザーからのエンゲージメントに基づくことになった。

このため一部のユーザーは、たとえ内容が真実でなくとも、広く拡散されやすい投稿を共有するようになった。私がメッセージを送ったユーザーの何人かは、自分の投稿へのエンゲージメントや、注目を集めるコンテンツを共有することで利益を得ていることを認めた。

ほとんどのソーシャルメディア企業が、ユーザーが投稿の視聴回数から収益を得ることを許可しているのは確かだ。しかし、ユーチューブやTikTok、インスタグラム、フェイスブックには、虚偽情報を広めるコンテンツを投稿するアカウントを収益化しないようにしたり、凍結したりできるガイドラインがあり、誤解を招く投稿にはラベルを付けるとしている。それに対してXには、誤った情報に関し、他社と同じようなガイドラインはない。

偽のAIコンテンツに関するルールや、投稿に文脈を追加する「コミュニティノート」といった仕組みはあるものの、Xはすでに、ユーザーが誤解を招く情報を報告できる機能を廃止している。

Xは、コメントを求めたBBCの取材に応じなかった。

政治的な色合い

Xで拡散された誤解を招く投稿は、他サイトの動画のコメント欄にも広がる。これは、ひとつのサイトで共有されたアイデアが、ソーシャルメディアの生態系を通じて広がる様子を示している。

「Wild Mother」は、未検証の理論を複数サイトで頻繁に拡散するインフルエンサーだ。彼女は4年前、自分の投稿のコメント欄は「私を罵り、それを否定する人々」で埋め尽くされていたと語った。

「でも今は、ほぼすべてのコメントが賛成意見だ。そのことに驚いている」と、「Wild Mother」は話した。彼女が大勢から賛同を得たのは、ジオ・エンジニアリングに関する陰謀論と、直近のハリケーンに関する投稿だった。

この種の誤った情報には現実世界に影響をおよぼし、当局への信頼を損なう可能性がある。今回のケースで言えば、ハリケーン「ミルトン」後の複雑な救助・復旧活動において、当局への信頼を損なう可能性がある。

自然災害時には常に誤った情報が広まるものだが、以前と今とでは、決定的な違いがある。まず、災害時に共有されるデマが、前より大勢に広まっている。英シンクタンク「戦略的対話研究所(ISD)」によると、X上では30数件の虚偽投稿や中傷的な投稿が、合わせて1億6000万回、閲覧されていた。

加えて、アメリカでは大統領選が迫っているだけに、虚偽情報に伴う政治的な色合いが強まっている。

ISDの調査によると、最も拡散された投稿の多くは、共和党のトランプ候補を支持するアカウントから発信された。またこうした投稿は、外国からの支援や移民を攻撃する内容だった。

一部の投稿や動画は救援隊員さえ標的にして、その行動を「反逆」だと非難しているが、その内容は事実ではない、突拍子もない陰謀論だ。

こうした虚偽投稿が作り出す怒りや不信感は、現場の救助・復興作業を妨げる危険性がある。また選挙を前にして、国の制度や政府への信頼を損ない、政府対応への正当な批判を埋没させてしまう危険もある。

「Wild Mother」や彼女のような人々は、こうした事態を「前より大勢が現実を認識し始めている」しるしだと受け止めている。しかし私には、陰謀論が前より多くの支持者を獲得しているしるしに思える。

「Wild Mother」は私に、「情報をたくさん得ている集団は、統制するのがはるかに難しい」と教えてくれた。つまり、こうした証拠のない陰謀論を信じる人が増えれば増えるほど、対抗しにくくなるわけだ。

結局のところ、ソーシャルメディアサイトのアルゴリズムが、エンゲージメントを何よりも優先する仕組みになっていることが、この事態を作り出している。陰謀論、事実と異なる誤った主張、ヘイト(憎悪)は、それが真実ではないと誰かが気づく前に、何十万人もの人に広まる可能性がある。そして、それを共有する人々は、再生回数と「いいね」とフォロワー、そして金銭を得ることができるのだ。

追加取材: マイク・ウェンドリング、BBCヴェリファイ(検証チーム)

(英語記事 How hurricane conspiracy theories took over social media

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c5yj0x12z8yo


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