2024年10月15日(火)

BBC News

2024年10月15日

アブドジャリル・アブドゥラスロフ BBCニュース(キーウ)

ウクライナ東部の前線近くで空に白い飛行機雲が二筋、軌跡を描けば、意味するところはだいたい一つ。ロシアの戦闘機が間もなく攻撃するのだ。

しかし、東部コスティアンティニウカ市の近くでは、前例のない事態が起きた。二本の筋のうち低い位置にあった一本が、二つに枝分かれして、もう一本の筋と交差したかと思うと、オレンジ色の閃光(せんこう)がパッと光ったのだ。

これは何事だったのか。前線から20キロの上空で、ロシア軍機が味方を撃墜したのか。それとも、ウクライナ軍機がロシア軍機を撃墜したのか。

何事かと探しに行ったウクライナの人たちは間もなく、落下した機体の残骸から、自分たちが目にした光景は、ロシアの最新兵器が破壊される瞬間だったことを知る。S-70ステルス戦闘ドローン(無人機)だ。

これはよくあるドローンとはまったく違う。「狩人」を意味する「オホートニク」と名付けられた重量のある無人機で、大きさは戦闘機と同程度だが、操縦席がない。探知するのが難しく、世界にはこれに「たとえられるものがほとんどない」のだと開発者たちは言う。

それは確かにそうなのかもしれないが、この1機は明らかにコースから外れていた。動画に映る2本目の飛行機雲はどうやらロシアのSu-57戦闘機のもので、ドローンを急ぎ追跡していた様子だ。

あらぬ方向へ飛ぶ無人機を、ロシアの戦闘機は制御しようとしていたのかもしれない。しかし両方ともウクライナの防空圏に向かっていたため、オホートニクが敵の手に渡らないよう、破壊せよとの判断が下されたものと思われる。

ロシア政府もウクライナ政府も、コスティアンティニウカ近くの空で何が起きたのか、正式にはコメントしていない。しかし、複数のアナリストは、おそらくロシア軍がドローンを制御できなくなったのだとみている。しかもその原因は、ウクライナの電子戦システムによる妨害だろうと。

今回の戦争ではたくさんのドローンが使われている。しかし、ロシアのS-70はまったく独特だ。

重さは20トン以上で、飛行可能な距離は6000キロと言われている。

矢の形をしていて、外見はアメリカのX-47Bによく似ている。X-47Bはアメリカが約10年に開発したステルス戦闘ドローンだ。

オホートニクは爆弾やロケット砲が搭載可能で、偵察飛行を行うだけでなく、地上と空中の標的を攻撃可能だとされている。

そして、ロシアの第5世代Su-57戦闘機と連携して働くように設計されている。これが重要ポイントだ。

開発は2012年から始まり、初飛行は2019年だった。

しかし、2年半になるロシアのウクライナ全面侵攻で実戦使用しているという証拠は、10月5日までなかった。

今年初めには、ロシア南部アフトゥビンスク空軍基地で目撃されたという情報があった。この基地はロシアがウクライナ攻撃の出発点に使う拠点のひとつだ。

そのため、ロシアが最新兵器を戦闘中に試してみたのが、コスティアンティニウカ上空で中断された飛行だったのかもしれない。

無人機の墜落現場では、ロシアの悪名高い長距離滑空爆弾D-30の残骸も見つかったと言われている。

滑空爆弾は、殺傷力の高い爆弾に衛星誘導装置を取り付けたもので、きわめて危険だ。

ではオホートニクは何のために、Su-57戦闘機と一緒に飛行していたのか。キーウを拠点にする航空専門家アナトリイ・クラプチンスキー氏によると、作戦行動の範囲を拡大するため、戦闘機は地上からの信号をドローンに中継していた可能性がある。

ステルス・ドローンの飛行が今回失敗したことは、ロシア軍にとってまぎれもない打撃だろう。年内には本格製造に入る予定だったが、明らかに無人機はまだ開発が不十分だ。

S-70の試験機は4機、用意されたと言われている。ウクライナ上空で破壊された1機は、その中で最も最新型のものだった可能性もある。

破壊はされたものの、ウクライナ軍はその残骸からオホートニクについて重要な情報を得られるかもしれない。

「標的捕捉のための独自のレーダーを持つのか。あるいは爆撃する標的の座標が、砲弾にあらかじめプログラムされているのか。こうした情報が得られるかもしれない」と、クラプチンスキー氏は言う。

墜落現場の映像を検討するだけで、ドローンのステルス飛行能力はやや限定的だというのがわかると、同氏は話す。

エンジンのノズル(筒口)が丸い形状なので、レーダーで捕捉可能だという。同様に、機体に使われているたくさんのリベットはおそらくアルミ製で、これもレーダーで発見できるだろうと。

今後はウクライナの技師がオホートニクの残骸を徹底的に研究した後、その研究成果を西側諸国を伝達するはずだ。

しかし、それでもなお、ロシアが決して立ち止まっていないことが、今回のこの出来事からわかる。ロシアは、自国の膨大な人的資源や通常兵器の備蓄に、決して頼り切ってはいない。

ロシアは戦争遂行のため、新しく効率的な最新鋭の戦い方を工夫している。そして、今回の失敗は次回の成功につながるかもしれないのだ。

(英語記事 Mystery of Russia's secret weapon downed in Ukraine

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c3e9kv72g19o


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